【連載15:AFTERⅡ】シアトルで最高の体験!そして…彼の後悔

ハーディンは、恋人テッサを追って彼女の職場にまで出向いたが、彼女は自分を突き放すばかりだった。彼女の言葉……「あなたは死ぬまでずっとひとりで過ごすのよ」それがずっと頭を離れずにいる。一方テッサは憧れのシアトルへ初めての出張、新しい世界に胸は高鳴るが……。『AFTER seasonⅡ 壊れる絆』連載第15回。

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どんなパーティーよりも……彼女といるほうが楽しいのに
あなたは死ぬまでずっとひとりで過ごすのよ、それは気の毒だと思うわ。でも、わたしは過去に区切りをつける。わたしをきちんと扱ってくれるすてきな男性と出会って結婚し、こどもを産む。わたし、幸せになるわ。
テッサの言葉が頭のなかでぐるぐる回る。彼女の言うことは正しい。でも、それが現実になったらいやだ。ひとりでいるのを気にしたことはなかった─でもいまは、自分の手のひらからこぼれていったものの大きさを思い知らされる。
「おまえは?」ジェイスの声がぐちゃぐちゃの思いに割って入ってくる。
「えっ、なんだって?」車を運転していることすら忘れそうになっていた。
ジェイスはあきれた顔をしながらマリファナを一服した。
「おまえも行くか、って聞いたんだよ。おれたち、ゼッドのところへ行く」
おれはうめき声をあげた。「どうかな……」
「なんだよ? いつまでもめそめそしてんじゃねえよ。赤ん坊みたいにふにゃふにゃしけた面しやがって」
おれはジェイスをにらみつけた。ゆうべ、一睡でもできていたら、腕を伸ばしてやつの首を絞めてやるのに。
「そんなんじゃねえよ」
「いや、そうだね。今夜はとことん酔っ払ってセックスしろ。誰とでも寝る女がきっといるはずだ」
「そんなの必要ない」彼女以外の女なんてもう要らない。
「なあ、ゼッドのところへ行こうぜ。セックスするのがいやなら、せめてビールを飲めよ」
「ほかに何かしたいと思ったことないのか?」
ジェイスは、おれの頭に角でも生えたかのような顔でこっちを見た。「はあ?」
「パーティーで騒いで、いつも女をとっかえひっかえしてセックスするなんて飽きないか?」
「ワオ、これは驚いたね。思ってたよりひどい。おまえ、重症だよ!」
「違う、おれはただ、いつもいつも同じことの繰り返しは飽きるって言ってるんだ」
ジェイスは知らない。ベッドに寝転んでテッサを笑わせるのがどんなに楽しいか。お気に入りの小説について彼女が長々と話すのを聞いているのが、どんなにおもしろいか。体を触ろうとして腕をぶたれるのがどんなにうれしいか。
いままで行ったどんなパーティーより、これから行くどんなパーティーよりもずっと、そっちのほうがいいのに。
「おまえ、ほんとに彼女に痛手を負わされたんだな。まったく、ひどい災難だな」ジェイスは声をあげて笑った。
「違う、そんなんじゃない」
「はいはい、わかったよ」
ジェイスは吸いかけのマリファナを窓から外に投げた。
「でも、彼女はいま、誰ともつき合ってないんだろ?」
やつは、おれがハンドルを握り締めるとさらに高笑いをした。
「冗談だよ、スコット。おまえがどこまで怒るか見たかっただけだ」
「いい加減にしろよ」
おれは自分の言い分を証明するため、ゼッドのアパートメントに向かう脇道に入った。
 
何もかもが初体験! なのに……
シアトルのフォーシーズンズは、いままで見たなかで最高にすてきなホテルだった。贅と美を凝らした隅々までを五感で受け止めたくて、ゆっくり歩こうとしたのに、キンバリーはわたしを引きずるようにしてエレベーターに乗り、廊下を歩く。トレヴァーとミスター・ヴァンスはそのあとをただついてくるだけだった。
彼女はある部屋のドアの前で止まって言った。
「ここがあなたの部屋よ。荷物をかばんから出したら、わたしたちのスイートルームで週末の予定の確認ね。もっとも、あなた自身もすでに確認ずみとは思うけど。服は着替えたほうがいいわ。その青いワンピースは今夜、街に繰り出すときのためにとっておくべき」
キンバリーはウィンクして廊下を歩いていった。
ゆうべと一昨日過ごした部屋とは大違いだった。ここのロビーに飾られていた絵画一点だけでも、モーテルのひと部屋全体の装飾費用よりするはずだ。窓からの眺めはすばらしかった。
シアトルはほんとうに美しい街だ。高層マンションで暮らし、シアトル・パブリッシング社で働く自分の姿が想像できる。ヴァンス社も支社を開くから、それでもいい。実現したら、こんなにすてきなことはないのに。
週末に着る服を掛けてから、黒のペンシルスカートと薄紫色のシャツに着替えた。会議はすごく楽しみ。でも、街にくりだすのはちょっと緊張する。すこしは楽しまなくちゃとは思うけど、何もかもが初体験で、ハーディンに傷つけられた痛みのせいで、心にぽっかり穴が空いたような感じだった。
キンバリーとミスター・ヴァンスのスイートルームに着くと、もう二時半だった。三時までには下の大きな会議場に行かなければならないのに。ひどく不安になる。
でも、キンバリーは笑顔でドアを開けてくれた。スイートルームにはゲストを迎えられる部屋と、それとは別にリビングがあった。母が住んでいる家全体よりも大きく見えた。
「これは……ワオ、すごい」
わたしが口をあんぐり開けるのを見てミスター・ヴァンスは笑い、グラスに飲み物を注いだ。水だろうか。
「まあまあだろ?」
「ルームサービスを頼んだのよ、下へ行く前に何か食べられるように。もうすぐくるはずだわ」というキンバリーの言葉に、わたしはにっこり笑って礼を言った。食べ物のことを言われるまで、お腹が空いていることにも気づかなかった。きょうはまだ、何も食べていなかった。
「もううんざり、って感じ?」リビングから現れたトレヴァーが尋ねてくる。
「うんざりだなんて、とんでもない」と答えると、彼は声をあげて笑った。「もう、ここから出たくなくなるかも」
「ぼくもだよ」
「わたしも」とキンバリー。
ミスター・ヴァンスは首を横に振り、「まったく、きみがそうしたいならそうしてもいいけどね」と彼女の背中に手をやる。いかにも大人の恋人同士という仕草に、わたしは目をそらした。
「いっそ、本社ごとみんなでここに移ってきましょうよ!」とキンバリーが冗談を言う。すくなくとも、わたしは冗談だと思ったけど。
「スミスもシアトルが好きになるだろうね」
ミスター・ヴァンスの言葉に、思わず聞き返してしまう。「スミス?」でも、結婚式のときに見かけた男の子を思い出して、顔が赤くなる。「ごめんなさい、息子さんでしたね」
「いいんだ─変な名前だろう?」彼は笑いながらキンバリーに体を寄せた。
愛と信頼に満ちた関係でいられるのは、すてきなことに違いない。キンバリーがうらやましい。こんなふうに思うのはおかしいけど、やっぱりうらやましい。彼女のことを心から思い、彼女の幸せのためならなんでもするという運命の男性がいるなんて。すごく幸せなことだ。
わたしはにっこりほほ笑んだ。「なかなかいい名前だわ」
食事をすませてから一階へ行き、本好きが集まる大きなカンファレンスルームに放りこまれた。まるで天国だ。
「人脈、コネ、新しい人と出会う」ミスター・ヴァンスが言う。「ネットワーク作りがすべてだよ」
それから三時間、彼はわたしを室内にいるほぼ全員に引き合わせてくれた。最高だったのは、彼がわたしを単なる学生インターンではなく、大人として扱ってくれたこと。ミスター・ヴァンスだけじゃなく、会った人全員がそうだった。
 
次回、テッサはシアトルでのまぶしい時間に心を奪われていく。一方ハーディンは仲間たちの中にも居場所を見つけられず……。
 
 

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