【連載14:AFTERⅡ】彼のことは忘れて…楽しい週末!いざシアトルへ

職場にまで押しかけてきたハーディンに、テッサはきつい言葉を投げつける。「あなたは死ぬまでずっとひとりで過ごすのよ」……ショックを受けた様子で引き返していったハーディンの表情はいつまでも脳裏を離れなかった。しかしまた朝はやってくる。週末はいよいよシアトル出張。行く先で待ち受けているのは……? 連載第14回。

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なんてこと……私の車はどこ!?
翌朝、初めての出張に胸が不安でいっぱいでパニックになりかけていた。
それに車の修繕の手配を忘れていたので、あわてて近くの修理工場を探して電話した。車を週末のあいだ預かってもらうのに追加料金がいるかもしれないけど、とりあえずはそれで心配が減る。愛想のいい人が電話に出てくれたので、あえてこちらからは追加料金については聞かずにおいた。
支度をして髪をカールし、いつもよりメイクをがんばった。
服は、まだ袖を通していない濃紺のワンピースを着ることにした。体の曲線がはっきりわかるような薄手の生地がハーディンの好みだろうと思って買ったものだ。それほど露出度の高いワンピースじゃない。七分袖で、膝が隠れるぐらいのスカート丈。でも、着てみると、すごく似合って見える。
何を見てもハーディンを思い出してしまうのがムカつく。鏡の前に立っても、このワンピースを着た姿を彼に見られたところを想像してしまう。わたしが仕上げに髪を整えるのを見ながら、彼はきっと目を輝かせ、唇を舐めてから口ピアスを噛むだろう。
ドアをノックする音に、わたしは現実に戻った。
「ミズ・ヤング?」ドアを開けると、青い作業服を着た男性がいた。
「はい」わたしはバッグを開けて車のキーをつかんだ。「はい、そこの白いカローラです」とキーを渡す。
作業服の男性は後ろを振り返った。「白いカローラ?」と困惑した声。
わたしは外に出た。車が……ない。
「いったいどういうこと……待って、フロントに電話して聞いてみます。昨日、車をここに残したままにしてたから、撤去されたのかもしれない」こんなふうに一日が始まるなんて最悪だ。
「すみません、三六号室のテッサ・ヤングです」フロントの男性が出たので、そう告げる。「わたしの車、牽引されちゃいました?」できるだけ穏やかに話そうとするものの、すごくいらいらする。
「いいえ、そんなことありませんよ」
頭がぐるぐるした。「そうですか、じゃあ、盗まれたとかしたんだわ……」だとしたら、ひどい目に遭ったなんて言葉じゃすまない。もう、ここを出なくちゃいけない時間なのに。
「いいえ、今朝、あなたの友達が来て、運んでいきましたよ」
「友達?」
「ええ、あの……タトゥーとかいっぱい入ってる」フロントの男性は、ハーディンがここにいて聞かれやしないかとばかりに、声を潜めた。
「えっ?」なんて言われたのかはわかったけど、それしか言葉が出なかった。
「あの、二時間ほど前にレッカー車でやってきたんですよ。すみません、あなたもご存じかと思って─」
「そうですか、どうも」わたしはうめきながら電話を切った。そして、待ってくれていた整備士の人に向き直る。
「ほんとにごめんなさい。誰かがすでに別の修理工場に持っていったそうです。わたしは知らなかったんだけど。無駄足を踏ませてしまって、すみません」
彼はにっこりして、気にしないでいいと言ってくれた。
きのうハーディンとけんかしてから、今日も会社へ行くのに車に乗せてもらう必要があるのを忘れていた。
トレヴァーに電話すると、すでにミスター・ヴァンスとキンバリーにこちらへ寄るようお願いしたという。わたしは彼に礼を言って電話を切り、窓のカーテンを開けた。黒い車が駐車場に入ってきて、この部屋の前で止まる。下がったウィンドウからブロンドの髪が見えた。
「おはよう! 助けに来てあげたわよ!」
ドアを開けると、キンバリーが笑っていた。賢くて優しいトレヴァー、いつも先のことまで考えている。
外に出た運転手は帽子にちょっと手をやって挨拶すると、わたしのバッグを取ってトランクにしまった。
後部ドアを開けてくれたのでなかを見ると、革張りの座席が向かい合わせになっている。片方にはキンバリーが座り、自分の隣に座れと座面をぽんとたたく。その向かいには、楽しげな表情でこちらを見るミスター・ヴァンスとトレヴァーがいた。
「週末のお出かけ、待ち遠しかった?」トレヴァーが満面の笑みで尋ねてくる。
「ええ、あなたには想像もできないくらい」わたしは車に乗りこんだ。
 
シアトルへ……最高の週末にドライブ
ハイウェイに乗ると、トレヴァーとミスター・ヴァンスはまた深い話に戻った。シアトルの新しいビルの一平方フィートあたりの賃料についてのことらしい。キンバリーはひじでわたしをつつき、彼らの話を手振りでまねた。
「この人たちったら、ほんとまじめなんだから。で、あなたの車に何かあったって、トレヴァーが言ってたけど?」
「ええ。どういうことなのか、さっぱりわからない」キンバリーの人懐こい笑顔を見ていると、あまり深刻にならず明るく答えられた。「昨日、エンジンがかからなくなったから修理の人を呼んだの。でも、それが来る前にハーディンが誰かに頼んで持っていかせたの」
キンバリーは鼻にしわを寄せて笑った。「彼、あきらめが悪いのね」
思わずため息が出る。「そうみたい。わたしがいろいろ理解してのみこめるまで、すこし時間をくれたらいいのに」
「理解してのみこむって、何を?」例の賭けのことや、わたしがみじめな思いをしたことをキンバリーは知らないのを忘れていた。でも、話す気にはなれない。彼女は、わたしとハーディンが別れたことしか知らないのだった。
「よくわからない、とにかくぜんぶ。いまはいろんなことがありすぎて、住むところもないんだもの。
彼はこの件をまじめに受け止めていないような気がするし。わたしやわたしの人生なんて自分の好きに操れるように思ってるの。いきなり現れてごめんと言えば、すべては許されると思ってる。
でも、そういうわけにはいかないから。すくなくとも、これからは絶対に」わたしはまくし立てた。
「でもまあ、よかった。あなたが自分ひとりで生きると決めて、うれしいわ」
キンバリーが突っこんで聞かないでくれて、よかった。「ありがとう、わたしも同感よ」
ハーディンのいいなりにならずにノーと言えた自分が誇らしい。でも、彼に昨日ぶつけた言葉を思いだすと、ひどくつらい。あれはハーディンの身から出た錆だとわかっている。
でも、彼が言うように、ほんとうにわたしのことを気にかけているのだとしたらどうする? たとえ、心の底ではそう思っていたとしても、それだけでは彼がわたしを二度と傷つけないという保証にはならない。
だって、彼は人を傷つけずにはいられないタイプだから。
話題を変えようとしたのか、キンバリーは興奮したように話を始めた。
「今夜は、最後のトークセッションが終わったらすぐに街にくりだすわよ。日曜は、あちらのふたりは午前中ずっと打ち合わせだけど、わたしたちはショッピングに行きましょう。今夜だけじゃなく土曜の夜も出かけるわ。どう?」
「出かける、ってどこへ?」わたしは声をあげて笑った。「まだ十八歳なのに」
「あら、だいじょうぶよ。クリスチャンはシアトルでも顔がきくから、彼といれば、どこでも入れるわ」ミスター・ヴァンスのことを話すときにキンバリーが目を輝かせる様子が好きだ。彼はすぐ隣にいるというのに。
「わかった」いままで“街にくりだした”ことなんて一度もない。フラタニティハウスでのパーティーは何度か行ったけど、ナイトクラブとかそういったたぐいのものに足を踏み入れたことはない。
「きっと楽しいわ、心配しないで」キンバリーは請け合った。「そのドレス、絶対に着なくちゃだめよ」と言って笑った。
 
次回、シアトルでは目に映るものすべてがまぶしく、すばらしく見える。その輝きに目がくらむテッサ。一方ハーディンは……。
 
 

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