【天然痘の脅威】根絶されてなお恐れられる最悪の感染症とは?

紀元前の古くから人を脅かし、不治の病と恐れられた天然痘。時に国さえ滅ぼしたとされる感染症は、なぜそれほどに流行し、どう収束していったのか。

感染経路から症状、対応策などその歴史や蓄積された数々のデータを交えてご紹介していきます。

要チェック項目


□天然痘は致死率40%とも言われる深刻な感染症である
□ワクチンや防疫管理により感染症としては世界で初めて根絶された
□アメリカではワクチンの製造技術が継承され、再流行やテロへの利用に入念に備えている

天然痘の症状や特徴を解説
人々を苦しめ続けた天然痘。具体的にどういう病気だったのでしょうか? 以下に項目別で解説していきます。

臨床症状について


天然痘に罹患すると、まず前駆症状と呼ばれる異常が発生し始めます。患者は40℃に近い発熱や頭痛、腰などの関節の痛みを訴えるため、風邪やインフルエンザなどと誤認され、初期対応が遅れることもあります。

高熱が続いて3日ほどが過ぎると遂に天然痘に特異の症状が現れ出します。いったん解熱するのを契機に、顔や頭頚部を中心とした体のあらゆる箇所へ白色から皮膚に近い色の豆粒大丘疹が広がっていきます。

この丘疹は数日で化膿してひどい膿疱となるため、罹患から8日前後で患者は再度高熱に襲われます。

この膿疱は体内の臓器にも発生するため、肺など重要な臓器を侵し、呼吸困難といった合併症を引き起こします。

この期間を乗り越えられれば2週間ほどで症状は軽快を始めますが、残念なことにかなり多くの人が治癒に至るまでに亡くなってしまいます。

また、例え完治しても膿疱の跡がはっきりと残ってしまうことが多いため、その悪質さを指して悪魔の病気などとも呼ばれています。

感染について


天然痘ウイルスの潜伏期間は1週間から16日です。感染力は他に類を見ないほどに強く、厳格な隔離措置などが必要になってきます。

しかし、唾液などの飛沫による感染の他に皮膚の接触による感染もあるため、気付かない内にウイルスが移動してしまっていることも少なくありません。

比較的長い潜伏期間や初期症状だけでは他の感染症との鑑別が困難であることにより、一度でも集団内に患者が出現すると感染は爆発的に拡大します。

天然痘の治療法 〜もし発症してしまったら〜
その高い死亡率が物語るように、残念ながら天然痘には発症後の有効な治療手段はありません。天然痘ウイルスを死滅させることができる抗ウイルス薬などは存在せず、必然的に打つ手が限られてしまうのです。

もし天然痘が発症してしまった場合には、患者の状態に合わせて解熱鎮痛、点滴などの輸液を行います。そうして患者の苦痛や負担を少しでも和らげ、体の免疫に頼るしか方法が無いのが現実です。

天然痘を予防することはできるのでしょうか?
ひとたび発症すると多くの人が亡くなってしまうため、天然痘の対応策として最も大切なのは予防を徹底することです。

しかし、天然痘は患者の膿疱が治癒したかさぶたを介してさえ、1年間以上も接触感染の可能性がある病気です。そのため、天然痘を予防するには根本的な防御策であるワクチンを利用することが必須となってきます。

幸いにして天然痘にはよく効くワクチンが存在します。

これは天然痘に罹患したとしても無症状または極めて軽度な症状に抑えることができ、仮に感染した後であっても数日以内であれば有意に発症を抑えられる非常に優れたワクチンです。

そのため、天然痘に感染する可能性のある全ての人に接種を推奨することになっています。

天然痘 〜根絶までの歴史〜
天然痘の歴史は遡り切れないほどに長く、人々はその脅威にずっと苛まれ続けていました。また、その悪質さを利用してある種の民族を攻撃する際に毒のように用いられたこともあったと言われています。

そんな天然痘に人類が対抗する転機が訪れたのは1798年、研究者エドワード・ジェンナーがワクチンの開発に成功したことでした。

それまでも天然痘患者の膿疱から取った膿で軽度の感染を起こし、免疫を獲得させるという方法があったのですが、一部の人がそのまま亡くなってしまうなど安全性に問題が残っていました。

エドワード氏が開発したワクチンは従来の方法より極めて安全に免疫を獲得できるため、瞬く間に世界中で使用されるようになり、同時に天然痘患者は急激に減少していきました。

ただ、このワクチンでも稀に副作用として脳炎を誘発することがあり、もし脳炎を発症してしまった場合には高率で死に至ってしまうなどの弱点も存在しました。

そのため、流行地域の人々に手当たり次第にワクチンを接種させるという手段を取ることはできませんでした。

しかし、1958年にWHOが「世界天然痘根絶決議」を発したことで人類に二度目の転機が訪れることになります。

WHOはインドなど当時の天然痘流行地域において、新たに発生した天然痘患者に1カ月以内に接触した人全員にワクチンを接種し、また綿密な計画の下に感染の広がりを抑止する対抗策を実施しました。

その結果、インドにおける天然痘患者は劇的な減少を見せ、また他の流行地域もインドに追随したためWHOは1980年、遂に天然痘の地球からの根絶を宣言するに至ります。

これは人に感染する感染症を人類が根絶した唯一の例であり、20世紀における医学界の最大の勝利とも言われています。この経験が今後のさらなる感染症根絶に繋がるように、知見を蓄えておくことが大切になるでしょう

現在の天然痘 〜根絶のその後〜
人類は20世紀に長らく苦しめられ続けた天然痘を根絶しました。しかし、それはあくまで自然界での話であり、実際には研究対象としてアメリカの研究施設などでウイルス株が保管されています。

何らかの原因による天然痘の再流行でワクチンが必要になる可能性、今後発生する新種のウイルス対策に天然痘のウイルスが有効である可能性などがあるためです。

しかし、天然痘ウイルスの保管はバイオテロに利用されかねないとの懸念や事故により漏洩を危惧する声もあります。

また、ウイルスは俗にレベル4と呼ばれる高機密の研究施設でしか保管できないことになっていますが、近年レベル4研究施設以外の場所で天然痘が確認される事例が頻出しています。

人類がようやく根絶した天然痘の今後は、やはり人類の手にかかっていると言えるでしょう。

恐怖の天然痘 〜先人の努力を忘れないように〜
天然痘は過去に甚大な被害を引き起こした恐ろしい感染症ですが、先人たちの努力や知恵によって苦労の末に根絶を果たしました。

しかし、ウイルスを有効活用する余地がある以上、ウイルス株を完全に放棄することはできないかもしれません。

であれば、せめて症状や特徴、歴史を知ることでその恐ろしさや対策の困難さを学び、二度と災禍を繰り返さないようにすることが大切なのではないでしょうか。

(監修:Doctors Me 医師)

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