超逆境?「売れるまで50年」奥多摩の林業担う29歳男子

「逆境」的業界で戦う30オトコにインタビューするこの連載。第9回となる今回のターゲットは、「林業」の異端児。東京の森から切り出した木材で東京のオフィス・住宅をプロデュースする会社「東京・森と市庭」の営業部長・菅原和利さんに話を聞いた。

●「50年かけて大根を育てるようなもの」!? 林業の現実
インタビューを開始した場所は、東京・奥多摩の山の中のツリーテラスの上。美しい景色が広がる場所で、菅原さんは林業の現実について語り始めた。

「木って、植えてから建材として売れる状態に育つまで50年かかるんですよ。今植えたら、僕の息子の代を超えて、孫の代にやっとです。『時を超えて受け継がれる事業』…なんて言うと聞こえはいいですけど、鉄筋コンクリート建築が主流の今、丸太を売っても手元に入るお金は1本100~200円程度の場合もあります。50年かけて大根を育てているようなものなんですね。しかも野菜と違って、自分で採って調理してお客さんに売る、ということがなかなかできない。生産・流通・加工・販売の間に業者が必要になるので、せっかく代々受け継がれた山でも、『下手に手を出すと赤字』なんてことになってしまうんです」
…それでは林業から手を引く人が多いのも仕方なく思える。菅原さんは、大学時代から奥多摩で民俗学のフィールドワークなどを行い、その経験をもとに複数の事業を起ち上げたのち、現在の会社に合流したという。そんな難しい状況の業界に、なぜわざわざ飛び込んでいったのだろう? 

「最初は学生時代を過ごした奥多摩をなんとかしたいという想いだけでしたね。木が売れなくなると、森は死んでいきます。間伐などの手入れをする費用が出せなくなり、どんどん光の入らない暗い場所になってしまいますから。森に問題が起こると、街にも問題が起こります。熊や猪などが街に下りてきてしまったり、土砂崩れや水質の悪化などが起こったり。また、美しい森がなくなることで観光客が減り、店が潰れてしまうことも。林業が立ちゆかなくなることは、街に大きな影響を与えてしまうんです」

●「漫画喫茶でヒノキを味わう」自由な発想で東京らしい林業を
森、そして街を背負う覚悟を持つ20代男子。彼はそんな難しい業界で、どのように戦っているのだろうか?

「過去に不動産会社で営業やリフォームを担当していた経験があったので、『ストレスが発生しやすい東京にこそ、木のぬくもりに対するニーズがある』と思ってたんです。業界の常識に縛られない、東京らしい林業のスタイルをつくれたらと考えています。まずは加工を行う工房をつくって、ゆくゆくは伐採・製材・加工・販売まですべて自社で行えるような体制を整えていきたい。ニーズをワンストップで形にすることでコストを抑えると同時に、自分たちが自由に動ける形にしたんです」

では、“東京らしい林業”って、具体的にはどんなもの?

「たとえば最近始めたのは、オフィスの床を簡単にフローリングに変えられる、『無垢ユカパネル』のレンタルサービス。東京のオフィスは3~5年で引っ越すことが多いので、フローリングにするのをためらう企業が多いんですよ。だから“借りられる床”を作ろうと。年単位で『無垢ユカパネル』を貸して、使わなくなったら返却してもらう。汚れた床を返されても…と思われるかもしれませんが、木材って、わざわざオールド加工することがあるように、風合いが出ることで価値が上がったりもするものなんですよ。貸して、価値を上げて返してもらって、また他の方に貸すという合理的なビジネスモデルです(笑)」

なるほど、“営業経験”から発想されたアイデアが、どんどん生まれているようだ。ほかにも、菅原さんのセンスは、様々なシーンで光っているよう。

「漫画喫茶の個室を、奥多摩のヒノキでつくったこともあります。狭いところに長時間滞在する空間なので、お客さんとしては少しでも落ち着いた気持ちになりたいだろうなと。そういう場所をつくって、若い人たちに木の魅力を感じてもらいたいという狙いもあります。

本当は、奥多摩に来てもらって、こういう風にツリーテラスに登ったりしながら空気感を全身で味わってもらうのが一番だとは思うんですけどね。東京の人々にただ木を売るんじゃなく、“森との関係”を作る機会を、今後もっと提供していけたらと考えています」

(黄 孟志/かくしごと)

(R25編集部)

※当記事は2016年11月25日に掲載されたものであり、掲載内容はその時点の情報です。時間の経過と共に情報が変化していることもあります。
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※コラムの内容は、R25から一部抜粋したものです
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R25 11/26

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