【連載18:AFTERⅡ】酔った勢いで彼に電話…すっごくいい気分

テッサは出張で訪れた憧れのシアトルでハッピーな夜を過ごしていた。ディナーからナイトクラブへ、大人の世界を垣間見るような時間に胸が躍る。一方ハーディンは、真相を知らされ昔の仲間を殴りつけていた。「言いたいことがあるならここで言えよ!」激高するハーディン。想いあいながらも二人はすれ違い続ける……。連載第18回。

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すっごくいい気分!
「これ、すっごくおいしい!」グラスの底に残ったフルーティーな飲み物をすすりながら、わたしはキンバリーに向かって叫んでいた。ストローを氷の隙間で動かし、いじましいくらいにぜんぶ飲もうとする。
キンバリーは満面の笑みを浮かべた。「お代わりは?」目の縁がすこし赤いけど、まだ落ち着いている。いっぽうわたしはふわふわして、ちょっと気持ち悪かった。
酔っ払ってる。まさに、そういう状態。
ひたすら首でリズムを取り、気づくと音楽に合わせて指先で膝まで叩いていた。
「だいじょうぶ?」トレヴァーはそれに気づくと笑った。
「うん、すっごくいい気分!」音楽に負けじとばかりに叫ぶ。
「踊らないと!」キンバリーが言う。
「踊らない! じゃなくて、わたしは踊れない。こういうタイプの音楽では無理!」
クラブで踊るようなダンスはしたことがない。いつもは怖くて、そういう人たちのなかに入っていけない。でも、アルコールで体がふわふわしているせいか、いつになく勇気がわいてくる。
「もう、どうにでもなーれ、踊りましょう!」
キンバリーはほほ笑むと、くるりとクリスチャンのほうを向いて、いつもより長く唇にキスをした。それから立ち上がってわたしをソファから連れ出した。
階段の手すりから下を見ると、二階分下のダンスフロアは人でごった返していた。誰もが自分の世界に浸るさまは興味をそそられるような、怖いような気がした。
いうまでもなくキンバリーは慣れたふうに踊っているので、わたしは目を閉じて音楽に身を任せようとした。ぎこちなく感じたけど、彼女に馴染みたかった。いまのわたしにはほかに何もなかったから。
 
ハーディンに電話すべき……私、酔ってる?
数え切れないほどの曲に合わせて踊り、お酒をさらに二杯飲むと、周りの世界が回り始めた。化粧室に行くと断ってフロアを出て、途中でバッグをつかみ、汗まみれの人たちの体を押しのけながら進む。
バッグのなかでバイブ音がする。スマホを取り出してみると、母からだった。やだ、絶対に出ない─いまは酔いすぎてて話もできない。化粧室の列に並びながらメールの受信ファイルをスクロールしていくと、ハーディンからのメールが一通もないことに気づいた。わたしは思わずしかめ面になった。
彼がどうしてるか、確かめたほうがいいんじゃない?
だめ、そんなことできない。無責任だし、明日になったら後悔するにきまってる。
列に並ぶうち、壁に躍る色とりどりの光がだんだん気に障ってきた。そんな気持ちを吹き飛ばしたくて、スマホの画面に集中する。
ようやく開いた個室に飛びこむように入って身をかがめ、吐くのか吐かないのか自分の体に問いかける。こんなの嫌い。ハーディンがここにいたら、水を持ってきて、わたしの髪が汚れないようにしてくれるのに。
まさか、彼はそんなことしない。
ハーディンに電話すべきだ。
吐きそうにないとわかって、個室を出て洗面台のほうへ行った。番号を打ちこんで肩と耳のあいだに挟む。
ペーパータオルを一枚とって濡らそうと蛇口の下へ持っていったけど、紙をひらひらさせないとセンサーは反応しなかった。こういう自動の洗面台って嫌い。
アイラインがすこしにじみ、別人のように見える。髪もワイルドで、目は充血している。三回目の発信音でわたしは電話を切り、スマホを台の端に置いた。
いったいどうして彼は出てくれないの? そう思った瞬間にスマホがバイブして、シンクに落ちそうになる。わたしは思わず笑ってしまった。なぜかわからないけど、ひどくおかしかった。
画面にはハーディンの名前。わたしは濡れた指でスワイプした。「ハロルド?」
はあ? どうしよう、明らかに飲みすぎだ。
 
彼の声……すごくすてき
聞こえてくるハーディンの声はどこか奇妙だった。「テッサ? だいじょうぶか? おれに電話した?」
ワオ、彼の声、すごくすてき。
「どうだろう─わたしの番号からだって画面に出てる? だとしたら、かけたのはわたしかもね」
笑いながら答えると、ハーディンの口調が変わった。「飲んでるのか?」
「そうかもね」甲高い声で答えて、目尻を拭いたペーパータオルをゴミ箱に投げる。
酔っ払った女子がふたり入ってきた。ひとりが自分の足につまずいて、みんなが笑う。ふたりは転がるようにしていちばん大きな個室に入ったけど、わたしは電話に集中しようとした。
「どこにいるんだ?」ハーディンの厳しい声。
「ちょっと、落ち着いてよ」以前はいつも、彼にこう言われていた。こんどはお返しをする番だ。
彼はため息をついた。「テッサ……」怒ってるみたいだけど、ふわふわした頭ではそんなことどうでもよかった。「どれくらい飲んだんだ?」
「わかんない……五杯くらい。六杯かも」わたしは壁にもたれた。薄い生地越しに感じるタイルが冷たくて、ほてった肌に気持ちいい。
「五、六杯って、何を?」
「“セックス・オン・ザ・ビーチ”……わたしたち、ビーチでセックスしたことはなかったわね……楽しかったでしょうに」にやにや笑いが出てしまう。彼の間抜けな顔が見たい……違う、間抜けじゃなくて、美しい顔だ。でも、いまは“間抜け”なほうが、響きがいい。
「なんだよ、べろべろに酔ってるじゃないか」ハーディンがいらいらと髪をかきあげているのが見えるようだ。「いま、どこだ?」
幼稚な返しだと思いつつ、わたしは答えた。「あなたのいないどこか」
「そうだろうとも。ちゃんと答えろよ。ナイトクラブにいるのか?」
「ワオ……誰かさんがすっごく怒ってる」わたしはまた声を立てて笑った。
後ろで音楽が鳴っているのが聞こえたのだろう。「きみのいるところなんて、すぐに特定できる」と言うのも、ただの脅しではないはずだ。でも、そんなことどうでもいい。
気づくと、わたしは口走っていた。「どうして今日は電話してくれなかったの?」
 
次回、ハーディンの心配をよそに、酔ってすっかり大胆になったテッサは知らない男と……!?
 
 

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