【連載16:AFTERⅡ】夜はこれから…初めての夜遊びに胸が高鳴る!

憧れの街シアトルでの体験にテッサは圧倒されるばかりだった。豪華なホテルに知的なパーティー、そこには彼女が本当に求めていたものがある。しかし一方でハーディンは、テッサのことを忘れられずにいた。「何故だテッサ……」仲間たちの元へ向かう間もそればかりを考えてしまう。『AFTER seasonⅡ 壊れる絆』連載第16回。

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いまも彼女の隣には……そこは俺の場所なのに
「おやおや、誰が来たかと思ったら」
ジェイスとおれがゼッドのアパートメントに入っていくと、モリーが無礼な視線を向けてきた。
「すでに酔っ払って、孕んでるのか?」
「だったら何? もう五時過ぎだよ」彼女は底意地の悪い笑みとともに叫んだ。もっともな言い分だと首を横に振っていると、モリーが言った。「一杯やろうよ、ハーディン」茶色い酒の入った瓶とグラスをふたつ、カウンターからつかみ取る。
「ああ、一杯だけな」と答えると、彼女はにんまりしながら小ぶりのグラスに酒を注いだ。
十分後、おれはスマホのフォトギャラリーを一枚ずつ見ていた。テッサに、もっとおれたちふたりの写真を撮らせておくんだった。そうすれば、いろいろ眺めていられたのに。
くっそ、ジェイスに言われたとおり、かなり重症だ。すこしずつ頭がおかしくなってる気がする。最悪なのは、彼女にまた近づけるなら、どれほどばかなことをやってもかまわないと思ってるところだ。
わたし、幸せになるわ。テッサはそう言った。おれは彼女を幸せにしてやれなかったけど、そうしようとすることだってできたはずだ。
とはいえ、彼女にちょっかい出し続けるのはよくない。車の修繕をしてやったのは、心配ごとを減らしてやりたかったからだ。やってよかった。仕事場まで行く手段があるかどうか確かめようとヴァンス社に電話しなかったら、彼女がシアトルに行くのだって知らずにいた。
なんで、テッサは教えてくれなかったんだ? いまも彼女の隣には、あのトレヴァーとかいう野郎がいる。そこは、おれの定位置なのに。やつはテッサが好きだ。彼女もやつに惹かれていくだろう。
彼女が必要としてるのはああいうタイプの男だし、ふたりはよく似てる。おれとテッサとは大違いだ。あいつなら彼女を幸せにできる。そう思うと腹が立つし、やつの頭を窓ガラスにぶち割ってやりたくなる……。
でも、手だしはしないで、彼女が幸せになる機会を与えたほうがいいのかもしれない。昨日、おれを許すことはできないって、はっきり言われたんだから。
「モリー!」おれはソファから大声で呼んだ。
「何よ?」
「もう一杯、注げ」勝ち誇ったようなモリーの満面の笑みが部屋じゅうに広がるのが、目に見えるようだった。
 
だめ、だめよ……彼のためのオシャレじゃないの
「もう、すごくすてきでした! 連れてきていただいて、ありがとうございます」エレベーターに乗りながら、わたしはミスター・ヴァンスにまくし立てていた。
「どういたしまして、きみはうちの社員のなかでもピカイチだからね。インターンだろうがなんだろうが、実に有能だ。それと、ほんとに頼むから、クリスチャンと呼んでくれないか? 前も言ったけど」社長は無愛想な口調を装って言った。
「あ、はい。もうとにかく、すてきなんて言葉では言い表せないぐらいで、ミスター……じゃなくて、クリスチャン。
電子出版について誰もが意見を述べているのを聞くのはすごく楽しかったです。この先は成長する一方で、読者にとっても便利で操作も簡単だし。大きな可能性を秘めたマーケットがどんどん広がって……」
わたしは興奮のままに話し続けた。
「ああ、そうだね。それに今回は、ヴァンス・パブリッシング社がさらなる成長を遂げる一助にもなった─ここで支社を開いて本格的に始動したら、どれほど新たな顧客を獲得できるか楽しみだ」
「はいはい、もう、話は終わった?」キンバリーがからかいながらクリスチャンの腕に腕を絡めた。「着替えて街に繰り出しましょう! ベビーシッターにスミスを預けて週末を過ごすなんて、数カ月ぶりなんだから」とおどけて口を尖らせる。
クリスチャンはほほ笑みながら彼女を見つめた。「はい、承知いたしました」
奥さんを亡くしたあと、ミスター・ヴァンス─じゃなくてクリスチャン─がまた幸せをつかむ機会を得ることができて、よかった。トレヴァーを見ると、にっこりしてくれた。
「お酒が必要だわ」とキンバリー。
「わたしもだ」とクリスチャン。「よし、じゃあ三十分後にロビーで。ホテルの前で運転手にピックアップしてもらう。ディナーはわたしが奢るよ!」
カールがすこし取れたのを直すため、部屋に戻ってすぐ、ヘアアイロンのプラグを差しこむ。ダークなアイシャドウをまぶたに塗って鏡を見ると、いつもより濃いけど、気になるほどじゃなかった。
目の際に黒のアイラインをいれ、チークをすこし足してから髪型を直した。メイクを濃くして髪をふわふわにしたことで、今朝着ていた濃紺のワンピースがさらに映える。これで、ハーディンが……。
だめ、だめよ。わたしはひとりつぶやきながら、黒いヒールを履いた。スマホとバッグをつかんで、友達のところへ行こうと部屋を出る……あの人たちは、友達?
どうかしら。キンバリーは友達のような感じがするし、トレヴァーはすごく親切にしてくれる。クリスチャンは上司というか社長だから、ちょっと違うけど。
エレベーターに乗り、シアトルですごく楽しく過ごしているとランドンにメールをする。彼が恋しい。ハーディンと別れても、ランドンとはこのまま友達でいたい。
エレベーターを降りると、ホテルのエントランス近くにトレヴァーの黒髪の頭が見えた。黒いかっちりとしたパンツとクリーム色のセーターという格好はすこしノアを思わせる。
着いたと気づかれる前に、彼のハンサムな姿をじっくり眺めた。彼はわたしを見つけると目をまるくして、咳払いとも小さな叫び声ともつかぬ音を出した。ほほを真っ赤にする様子に、わたしは思わず声をあげて笑ってしまった。
「なんていうか……きれいだ」
にっこりほほ笑んで返事をする。「ありがとう。あなたもそんなに悪くないわよ」
トレヴァーのほほが赤くなる。「どうも」ともごもごつぶやく。こんなふうに狼狽する彼を見るなんて変な感じ。いつも冷静で落ち着いているのに。
「ああ、いたいた!」キンバリーの声が聞こえた。
「ワオ、キム!」わたしは、これは幻かとばかりに顔の前で手を振った。太ももが半分しか隠れない赤のホルタードレスを着たキムは、ゴージャスそのもの。アイロンでまっすぐのばしたブロンドのショートヘアは、セクシーなのにシックで気品がある。
「今夜は、寄ってくる男どもを払いのけなくちゃいけないな」クリスチャンはトレヴァーに言い、ふたりで笑いながらわたしとキムをエスコートして歩道へと出た。
 
次回、テッサはシアトルで素晴らしい夜を満喫する。一方ハーディンは仲間たちといてもうまく酔えずにいた……。
 
 

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