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いつか出逢ったあなた

登場人物全員が主役。スピンオフだらけの妄想恋愛小説。(大半がなんちゃってバンド系)

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テーマ:小説 > 恋愛

2017/09/26 18:14:34

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ふいに時計を見て、グラスを持つ手を止めた。

結婚(偽物)してからずっと、あまり遅くなった事がない。

今日は最初から遅くなるとは言っておいたが、帰れるなら早く帰るつもりではいたし…

リズと二人きりで大丈夫だろうか。

「……」

親父に背中を向けるようにして、メールを打つ。

『今夜、やはり遅くなりますが大丈夫ですか?』

送信して間もなくして…

『お仕事お疲れ様です。大丈夫ですよ。リズちゃんはもう寝るだけです』

安心なような、少し寂しいような返信。

『そうですか。咲華さんも食事をとって先に休んで下さい』

『分かりました。お気遣いありがとうございます』

…他人行儀な言葉使いだが…

彼女があまりにも丁寧に返してくれるから、こちらも崩すわけにいかない気がしてしまう。


「…彼女に連絡か?」

背中から聞こえた声に、視線だけ動かして周りを見る。

…戸棚のガラスにスマホの明かり…

「彼女じゃないよ。でも連絡するって約束してたから。」

スマホをポケットに入れて振り返る。

「朝子も幸せになった事だし、別にいいんじゃないのか?誰かと始まっても。」

親父は前髪をかきあげて言った。


「…親父。」

「ん?」

「…あの時、俺の決断で死んでしまった一般人が…今もたまに夢に出て来るんだ…」

「……」

「そのたびに…俺には幸せになる資格なんてないって思う。」

「海…」

「なのに…癒されたいなんて…本当、俺って弱い男だなってつくづく思うよ…」


さくらさんに会って…俺は悪くないって言ってもらえて…肩の力が抜けた。

ずっと言えなかった心の中の塊を、紅美に吐き出す事も出来た。

だが…

それでも変わらない事はある。

『事実』だ。

その事実が…ずっと俺に重たくのしかかる。

俺が死なせてしまった一般人と。

その存在に気付く事もしてやれなかった…俺と紅美の子供。

朝子の事も傷付けた。

なのに…

今、咲華さんとリズと、こんなにも幸せに満たされた気分を味わって…

…どうかしてる。

だがそれはきっと…


偽物だから捨てられないんだ。


「…強い男なんて、そうそういないさ。」

親父がグラスを揺らしながら言った。

「…俺から見たら、親父は憧れに値する強い男だけどな。」

本当に。

昔から…憧れと尊敬の人物でしかない。

「嬉しい事を言ってくれるが…俺もそうでもない。一度織から逃げるように渡米した事があるしな。」

「…は?」

その告白に、俺は目を丸くした。

親父は何かを思い出したように小さく笑って。

「癒してくれる誰かがいるなら大事にしろ。彼女じゃないとは言っても…おまえがそこまで思う相手だ。きっと特別な何かがある。」

俺が入れた濃いめの水割りを飲み干した。

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