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いつか出逢ったあなた

登場人物全員が主役。スピンオフだらけの妄想恋愛小説。(大半がなんちゃってバンド系)

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テーマ:小説 > 恋愛

2017/09/17 16:44:05

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「はい、桐生院でございます。」

その電話があったのは…麗と誓は桜花の高等部に進級。

庭の桜がそろそろ咲き始めた頃だった。


『あっ、知花のおばあさまですか?七生です。』

「………あら…七生さん…お元気ですか?」

すぐ反応する事が出来なかった。

七生さんは…知花と一緒に楽団を組んで渡米されたお嬢さん。

知花と同じ歳で、小さな頃から知花に良くして下さる。

七生さんが一緒なら…と、安心していたのも確かだが、私は小さな受話器相手にとめどなく言葉を並べてしまいそうで、第一声を出すのが怖かった。

知花は、知花は…と…次から次へと…何が聞きたいかも分からないのに、とにかく名前を言いたい気がした。


『あの…落ち着いて聞いて下さいね…』

色々思っていたが、七生さんのその言葉で全てが飛んでしまった。

「な…何かあったのですか!?知花に…知花に何か…」

気が動転してしまって、慌てた口調でそう言うと。

後ろにいた麗が怪訝そうな顔で私の隣に立った。


『あっ、怪我とか病気じゃないんでご安心を……って言っていいかどうか…』

七生さんは少しだけ朗らかな口調でそう言ったけれど…

怪我や病気じゃない?

それなら…いったい…

受話器を持ち直して。

「それでは、知花に何が…」

ゴクリ。と、何度も唾を飲んでしまった。

すると…

『実は…神さんには秘密にして欲しいんですけど…』

「…千里さんに?」

『はい…実は知花…』

「……」

『妊娠…してて…』

「………えっ…?」

『もう、何日かしたらー…産まれると思います。』

「……」

頭の中が…真っ白になった。

知花が…妊娠……?

「それはつまり…」

『神さんの…子供です。』

「……わかりました。すぐ、そちらに伺います。」

『本当ですか!?良かった…知花、たぶん心細いんだと思うんで…おばあさまが来て下さったら、きっと喜びます。』

…七生さんの言葉に…胸が締め付けられた。

知らない土地でお産だなんて…知花はどんなにか心細かっただろう…

それに…千里さんの…赤ちゃんだなんて…


『それと…双子なんです。』

「…まあ…」

つい、麗の顔を見てしまった。

容子さんと知花に何の繋がりがないとしても…私は勝手に容子さんを浮かべた。

「あ…あの…知花のこと、よろしく頼みますよ。」

受話器を両手で持って、噛みしめるように言うと。

『…はい。任せて下さい。おばあさまも、気を付けていらして下さいね。住所と電話番号、FAXするので確認してください。』

「分かりました。色々と…ありがとう。本当に…お願いします。」

私は、そこに七生さんはいないのに頭を下げた。

それを見た麗は、少し変な顔をしたけれど…

受話器を置いてすぐ。

「何なの?」

眉間にしわを寄せたまま聞いてきた。

「…知花が…」

「…事故か何か?」

「……」

あの知花が…

私は首を横に振って言った。

「…お産ですよ。」

「………えっ?」

案の定、麗は見た事もないような驚いた顔をした。

「…ただ、千里さんには内緒のようですから…口外しないように。」

FAXが届いた音がして、私はそれを印刷する。

「…口外しないようにって…神さんに会う事なんてないけど…」

麗は私の後をウロウロとついて歩いて。

「…別れたのに…どうして…」

小さな声でつぶやいた。


私はすぐに身支度をして、空港に向かった。

そして、空港から貴司に連絡をした。

麗と誓をお願いします。と。

すると貴司は…後から三人で渡米する、と…


貴司は…麗と誓と距離を取っているように思えた。

近付きたいのに方法が分からないのか…それとも意図的にそうしているのか。

だから…三人で渡米すると言ってくれた事に…私の胸は熱くなった。


七生さんからもらったFAXを頼りに、空港からタクシーに乗って病院に到着した。

協会の旅行や視察で渡米経験はあるが、英語が堪能なわけではない。

何となく聞き取れても話す事が出来ない私は、知花を想う気持ちだけで…ここまでやって来た。


「…おばあちゃま…」

病室にいた知花は、私を見て驚いた。

七生さんは…私が来ることを秘密にしていたらしい。

ベッドの脇に居る七生さんに深々とお辞儀をすると。

「連絡くださったら空港までお迎えしたのに。」

小さな声でそう言われた。

「いいえ…知花のそばに居て下さるだけでありがたいです。」

七生さんにそう言った後、知花に向き直って。

「なんて…情けない顔をしているのですか。」

口ではそう言いながらも…優しく前髪をかきあげた。

酸素マスクをしている知花は、両目一杯に涙を溜めて…私を見つめる。

「…大丈夫ですよ。ずっと、ついてるから。」

「…おばあちゃま…」

そばにあったタオルで涙を拭って、七生さんが出してくれた椅子に腰かけた。

知花のお腹は、双子という事もあって…さくらの時よりも大きかった。

私はそっとそのお腹に触りながら…

「…曾祖母ちゃんですよ…」

声をかけた。


それから数時間後…知花に陣痛らしきものが始まって。

私と七生さんは交互に知花の腰を擦ったり、手を握って励ましたりした。

楽団の仲間の方々も来られて、心配そうに見守って下さった。

まるで、父親が四人いるみたいだ、と七生さんは笑った。

私には悪い冗談にしか聞こえなかったが…

産まれてくる子供達には、とても心強いのかもしれない。

頼れる存在が多くいると言うのは…。


そして…4月14日。

さくらの誕生日から十日後。

知花は、可愛らしい…男の子と女の子の双子を出産した。

小さくて…本当に小さくて…愛らしくて…

私は、また守るものが増えた喜びで…涙が止まらなかった。

そして…勝手にずっと祈り続けていた容子さんに…

ありがとう…と、これもまた…勝手な想いでしかなくても…

病院の屋上から、空を見上げて…手を合わせた。

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