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いつか出逢ったあなた

登場人物全員が主役。スピンオフだらけの妄想恋愛小説。(大半がなんちゃってバンド系)

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テーマ:小説 > 恋愛

2017/09/17 10:56:43

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「容子さん、ちょっと。」

私は…ハルさんの長男と容子さんを引き合わせる手を考えた。

とにかく子供を欲しがっている容子さんには…それをネタにするしかないのも分かっていた。

「何ですか。」

「…こちらへ。」

私はわざと中岡さんを避けるように小声で言って、容子さんに『秘密の話がある』と匂わせた。

洗濯室のそばまで来て、周りを見渡して。

「あまり…言いたくはありませんが、妊娠の兆候は?」

私がそう言うと、容子さんはあからさまに嫌な顔をした。

まあそうだろう。

私もそうだった。

結婚後、一番周りから言われたくない言葉だった。

「余計なお世話だとは思うのだけど…ずっと家に居てストレスが溜まっているんじゃないかしら。」

「私に…私に、子供が出来ない原因があるとおっしゃりたいのですか?」

容子さんは目をキッと吊り上げて。

「私だって早く子供が欲しいんです!!」

少し大きな声を出した。

「しー…解ってますよ…」

私は口元に指を立てて、容子さんの腕を擦った。

「ご実家からも親戚からも、何か言われて悩んでるのでしょう?まだ結婚して一年も経っていないと言うのに…本当に周りはうるさい事。」

「……」

「それとね、私…少し不安に思う事があるんですよ。」

「…不安…?何ですか?」

「貴司は…大人になっておたふく風邪をしてしまってね…」

「……」

「もしかしたら、子種が弱いのかもしれないんですよ。」

「…そんな…」

容子さんは、すごく困った顔をした。

そして、出来ない原因が貴司にあった場合…自分はどうしたら…と考えたのか、口元に手を当てて何かを考え込んでいるようだった。

「…私も、親戚中から責められて大変だったから、あなたの気持ちは分かりますよ。」

「お義母さん…」

「気晴らしに…年上の友人でも作ったらどう?」

私は着物の袂から一枚の紙を取り出した。

「今、このホテルで植物に関する展示会が行われてるの。」

「……」

容子さんは紙を手にして不思議そうな顔をした。

「その関係者の中に…貴司の腹違いのお兄様がいらっしゃいます。」

「…え?」

「知ってるんでしょう?私の夫は、あちこちに子供を作ってたのよ。」

「……」

特に驚いた顔をしない所を見ると、知っていたし…私の言わんとしている事も察したのかもしれない。

どうしても子供が欲しい容子さん。

そして…恐らく、容子さんとの間に子供を作る気がないからか、精子がない事を容子さんに伝えない貴司。

私は…知花と貴司を守らなくてはならない。

そのためなら…

「…お義母さま、私に…何をさせたいのですか?」

容子さんが低い声で言った。

「何を?あなたに子供を産んで…安心してもらいたいだけですよ。」

「……」

「さあ、オシャレして行ってらっしゃい。ストレス発散は大事ですよ。」

プライドの高い容子さんは、自ら不貞などしないはず。

待ちに待って貴司と結婚したのだ。

自分が桐生院を盛り返して見せる。と、息巻いて。

だが…夫に子種がないかもしれない。

そして、姑からストレス発散という浮気を勧められているなら…どうだろう。


容子さんは…一張羅の着物で出かけた。

私は前もって高原陽路史さんの姿を見に、その展示会に行って…この人なら…と思った。

容子さんよりも16も年上だが、物腰の柔らかさやユーモアのある会話。

貴司には悪いが、貴司よりずっと魅力的だ。

高原陽路史さんは独身。

もし…容子さんが恋にでも落ちて貴司と別れる気になれば…とも思う。

私は、この後の対策もぬかりないよう…中岡さんと裏で動いた。


高原氏は服飾関係の会社を持っていた。

かなり大きな物だ。

全国に店舗を展開していて、さらには造園業や遊技場の会社も手掛けた。

容子さんに向かわせたのは新しい造園の世界と題した展示会で、桐生院のような古くありふれた作りの庭から、近未来の日本家屋を想像したそれまで、幅広く映像やミニチュア、実際の写真や植えられている木々の紹介などが事細かに発表されてあった。

先に出向いた私でさえ、興味深く楽しめた。

長井が行ったら帰れなくなっていたかもしれない。


いつもと違って小奇麗な恰好で出かけた中岡さんは、容子さんにバレる事なく尾行に成功した。

容子さんは私には何も変わらない表情をして見せたが…

中岡さんが言うには、最初こそは固かったが、時間が経つにつれかなり笑顔になった、と。

…笑顔。

うちでは…最後に見たのはいつだろう。


容子さんが高原氏に想いを寄せるようなら…と、私は本気で思った。

誰でも好きな人と一緒になるのが一番だ。

そうじゃない人と一緒になって幸せを感じられるのは、自分じゃない誰かの幸せを願える人物なのかもしれない。

…私のように、ただ家のために…と育てられた者でさえ…

それは後悔でしかなかった。

…あの時、ハルさんの胸に飛び込んでいれば…

あの時、もっと祥司さんを好きになっていれば…

…どっちにしても、後悔だ。

私はハルさんの胸に飛び込まなかったし、祥司さんの優しさを知ったのは彼が亡くなってから。

…私には…自分の幸せより、誰かの幸せを願っている方が気が楽だ。


高原氏と会うようになって数か月。

容子さんは、貴司に子作りをせがまなくなったのか…寝室が賑やかになる事が減った。

性格的にも少し柔らかくなったのか…時々知花の顔を見て笑う事もあった。

そんな時には私も嬉しくなって、広縁で三人でお茶をしたりもした。

だが、そんな穏やかな空気が続いたのは…ほんの数か月…

容子さんが、あきらかに険しい表情で帰って来た。

少し距離が縮まっていたかのように思えたが、容子さんは相変わらず私に胸の内を語る事はなく。

容子さんが出かけるたびに尾行させていた中岡さんが言うには…

高原氏との逢瀬の後、泣きながらホテルから出て来た…と。

別れを告げられたのだろうか…

そう思ったが、その後も何度か容子さんは高原氏と会っていたようだった。

が…

夏の終わりに。

「聞いて下さい。妊娠しました。」

容子さんは…冷ややかな笑顔で私に言った。

「貴司さんの子供です。」

そんなはずはないのに…

まるで勝ち誇ったような、強い笑顔だった。

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