ブログランキング11

いつか出逢ったあなた

登場人物全員が主役。スピンオフだらけの妄想恋愛小説。(大半がなんちゃってバンド系)

  • 記事数 2468
  • 読者 656
  • 昨日のアクセス数 36386

テーマ:小説 > 恋愛

2017/09/16 21:22:58

  • 72
  • 0

祥司さんの葬儀は盛大だった。

あまりにも突然の事で、会社の人達は慌てふためいていた。

まだ49歳。

だが、女の上で張り切るには…少し疲れている年齢だったのかもしれない。


私は39歳で未亡人となった。

そして…貴司は17歳にして社長の座につかなくてはならなくなった。

それこそ寝耳に水だ。

祥司さんが、自分に何かあった時は貴司を社長に…と、何か予感でもしていたのか遺言を残していたらしい。

それを告げに来たのは辻という入社二年目の30歳の人だった。

祥司さんの会社に入る前は、大手の広告代理店で営業の仕事をしていたらしい。


「このたびは…」

そう言って頭を下げられたが、私は溜息をついて。

「辻さん、色々ご迷惑をおかけしてすみませんでした。」

辻さんの言葉を遮るようにして深々とお辞儀した。

私は仮にも桐生院祥司の妻だと言うのに。

会社の人間は誰一人として挨拶に来ない。

きっと、愛人の方に何らかのケアで出向いているのだろう。

恐らく辻さんは祥司さんの一番そばに居た人だ。

私がどんな人間であるのかも、分かっているのかもしれない。

…娘の葬儀でも泣かなかった、冷酷非道な可愛げのない妻、と聞かされていたかもしれない。


「…社長は…奥様と貴司さんの事を、とても気にかけておられました。」

意外な言葉が飛び出した。

だが、私は辻さんの作り話に違いない。と、表情を変えずに聞いた。

「自分が遊び歩いてしまうのは、もう…病気だ、と。」

「ふふ…よく解ってらっしゃった事…」

「余所で作った子の面倒を見させてしまって…奥様に顔向け出来ないとおっしゃってました。」

「……」

それには…何の感情も湧かなかった。

言葉も浮かばなかった。

今更何を…とでも思うと思ったが、何も思わなかった。

「社長は社長で…色々気に病んでらっしゃいました。年が離れているせいか、奥様の喜ぶ事も思いつかないとか…出来る事は、会社を大きくして家がどうなっても食いはぐれる事がないようにする事だ…と…」

「……そうですか。」

なぜ…祥司さんは、この人にだけそんな事を話したのだろう。

いや…本当の話かどうかなんて分からない。

故人を悪く言いたくはないが…祥司さんは調子のいい人だった。


「結婚前に、女の人と宿から出る所を見られてしまって、嫌な想いをさせたのに結婚してくれた、と…」

「……」

「結婚に対して夢を持っていただろうに、最初から全てを崩してしまった事も…悔いていらっしゃいました。」

「……今更…」

やっと…言葉が出た。


では…なぜあの時…女関係はきれいにしておくと言いながら、余所にばかり通ってしまったの。

なぜあの時…『おまえでもいい』なんて言って抱いたの。


「…貴司には…大学に行かせてやりたいのです。」

少しだけ…声が震えた。

辻さんがそれに気付いたかどうかは分からない。

「…ご本人ともお話させていただいてよろしいですか?」

「…もちろん…」


それから、貴司を呼んで…三人で話した。

私は貴司を大学に行かせたい。

だが、その後の事は…本人に任せようと思った。

本当は華の道に向かってほしい気持ちもあるが…何となく…貴司はじっと座って花を活けるより、外に出て働く方が向いている気がする。


「あなたの好きなようになさい。」

私が一言そう言うと、貴司はしばらく眉間にしわを寄せて悩んでいたようではあるが…

「…あまり会う事はありませんでしたが…それでも父が私に残してくれたと思うと、正直…継ぎたいという気持ちもあります。」

静かにゆっくりと…そう言った。

私はそれをガッカリする事もなく…むしろ、祥司さんの事をちゃんと父として認めている部分もあったのだと分かって、ホッとした。

貴司には…ちゃんと、人としての優しい心を持っていて欲しい。


「そうなさい。」

私が短く気持ちを伝えると。

「…ですが…今すぐにと言われると僕も困ります。何の知識もありませんし。」

貴司は辻さんに言った。

「ですから…準備期間をください。」

「……」

辻さんは無言で私を見た。

私はそれに、一度だけ目を閉じる事で応えた。


貴司は…背筋を伸ばして、とても凛としていた。

まだ17歳…

祥司さんが後を継いだ年齢よりも、ずっと若い。

貴司もまた…夢を見る事なく…道を押し付けられた。

貴司に申し訳ない気持ちを抱えつつ…

その分も、私は貴司の道を見届けようと決めた。

同じテーマの記事

コメント0

しおりをはさむ

このページのトップへ

GIRL’S TALKにログインする

Ameba新規登録(無料)はこちら

9/25 編集部Pick up!!

  1. 作ったご飯を毎日こっそり戻す夫
  2. 3年も不倫続ける姉を説得したい
  3. 不在時に来た子供が発作起こした

人気ブログ記事ランキング

  1. 1

  2. 2

  3. 3