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いつか出逢ったあなた

登場人物全員が主役。スピンオフだらけの妄想恋愛小説。(大半がなんちゃってバンド系)

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テーマ:小説 > 恋愛

2017/09/16 07:06:51

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今朝…貴司が死んだ。

入院する。と病院のロビーで会ったあの日から、一ヶ月も経っていない。

あっと言う間の出来事過ぎて…俺も桐生院家のみんなも…

覚悟なんて、出来てなかった。


「高原さん、すいません…流れで来てもらった感じになって…」

病室で一緒に貴司を看取った千里が、少し疲れた顔で言った。

「いいさ…それより、みんな大丈夫か?」

大部屋を見渡すと…さくらと母親と聖の姿が見えない。

知花と咲華と華月は赤い目をして、忙しく米を炊いたり食器を揃えたりしている。


…貴司の最期の言葉は…

『すがすがしい朝だな』

だった。

そう言った途端…目を閉じて…ドラマで見た事があるように、手が…ベッドから力なく垂れ落ちた。

「…貴司さん…?」

さくらが声をかけた。

それでも貴司は目を開けなかった。

「父さん…?」

「父さん!!」

知花と聖の呼びかけにも…貴司は応えなかった。


貴司の寝顔は…安らかだった。

呼び出されて、俺の首に手を掛けて。

耳元で『さくらをよろしくお願いします』と言われたが…俺は何も答えなかった。

…今更…さくらを頼むと言われても…

もう俺は、さくらと繋がる事は出来ない。

ずっと、交わらないよう…すぐそこに居るのに避けてきた。


「高原さん…お時間があるようでしたら、貴司のそばに…」

ふいに、母親が現れてそう言って。

俺は…しばらく母親と見つめ合った。

…生きて欲しい…

そう思う反面…

その目から生きる気力というより、死ぬ事に対する気力を見出してしまった気がした。


仏壇のある、広い和室。

その真ん中に、貴司はポツンと寝かされていた。

「…寒くないですか?間仕切りして部屋を小さくすればいいのに。」

俺が座りながら言うと。

「きっと…大勢いらっしゃるだろうから…」

母親は少しうつろな目をしながら…俺の隣に座った。


さっきまで、さくらと聖もここにいたのか…主を失くした座布団が二枚。

俺の向かい側に、寂しそうに並んでいる。


「…高原さん…」

隣に座った母親が、俺の手を握った。

「……」

無言で顔を見ると。

「…貴司から…さくらの事を頼まれたでしょう…?」

母親は、貴司の顔を見たまま…小声で言った。

「…私からもお願いです…どうか…さくらと…一緒になってやって下さい…」

「…何を言うんですか。出来るだけ、支えにはなりたいと思いますが…一緒になるなんて…」

小さく笑いながら答える。

昔、夢見た事もあった。

さくらと…と。

だが、もうそれは本当に遠い昔で。

俺もさくらも歳を取った。

その間に、お互い結婚もした。

もう…今更…

「…お願いします…あなたからいい返事を聞かないと…私は貴司の所へ行けません…」

母親にそう言われて。

俺は、それならなおさら返事などしない。と思った。


しばらく黙ってそのままでいると…

「…あなたの事を知った時は…心臓が止まる思いでした。」

母親が、不思議な事を言った。

「……どういう事ですか?」

「…もう…遠い昔の話です。」

「……」

「私は、産まれた時から…この家を継ぐ事が決まっていました。」

母親は遠い目をして…俺の肩越しに何かを見ているようだった。

そして…俺の肩越しに見ていた何かから…俺の目を真っ直ぐに見て。

「高原さん…私の話を…聞いていただけますか?」

今まで…見た事もないような、少女のような笑みを見せて話し始めた。

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