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いつか出逢ったあなた

登場人物全員が主役。スピンオフだらけの妄想恋愛小説。(大半がなんちゃってバンド系)

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テーマ:小説 > 恋愛

2017/09/15 22:17:43

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「……」

俺は、その会話を…複雑な気持ちで聞いていた。

貴司の病室のドアが少し開いていて…そこから聞こえた会話は、貴司と、その母親の物だった。

貴司が死んだら自分も死ぬ、と。

母親は、まるで長年連れ添った夫婦のように…

そして、愛し合っている恋人同士のように…貴司にそう告げた。


ドアの横の壁にすがって、腕を組んでいると…

「……」

母親が、ゆっくりと出て来て。

俺の顔を見て…静かに笑った。

そして、少し歩を進めて振り返って…俺に手招きをした。


「初めて、こういう所に入りました。」

母親を連れて一階にあるコーヒーショップに入ると。

少しだけキョロキョロとした母親は俺に笑いかけて。

「こんなおばあちゃんといたら、恥ずかしくないですか?」

そう言った。

「上品な着物のご婦人と同伴なんて自慢ですよ。」

俺がそう言って前髪をかきあげると、母親は少しうつむいて小さく笑った。


「…聞こえましたか。」

「……」

問われた事に答えずにいる事が答えだと分かっても、俺は知らん顔が出来なかった。

貴司が死んだら死ぬ。

貴司のいない桐生院に、自分の居場所はないとでも言わんばかりに…

「俺は…」

コーヒーを持ち上げた手を、一旦下ろした。

「…俺は15の時に母をなくしました。」

組んだ足を下ろして…テーブルに両手を置く。

「最初、桐生院家と付き合うなんて頭はなかった。なのに…混乱していた俺は…あなたと貴司に言われるがままに…」

つい鼻で笑ってしまうと、母親も口元を隠しながら肩を揺らせた。

「まるで…脅迫でしたね。私達親子はなんて酷い事をしたのかしら…」

「…それでも…付き合っていくうちに、俺はあなたを本当の母親と錯覚してしまう事が幾度となくありました。」

「……」

「俺の身体の心配をしてくれたり…弁当を持たせてくれたり…ああ、俺の事を想ってくれてるんだと思う瞬間は、幸せを感じました。」

それは…本音だった。

いくら俺が…貴司の都合のいいように、桐生院家の都合のいいように…駒として必要とされているのであったとしても。

貴司と母親に挟まれてそこにいると…俺に母と弟が出来た。と思う瞬間が、俺にはあった。

その錯覚を笑ってしまう自分もいたが…

いつの間にか、それは幸せな錯覚となっていた。


さくらと別れて、失意のどん底にあった俺は…

貴司に言われるがままに…さくらの幸せを目の当たりにする辛いポジションを選んだ。

だが、全ては考え方だ。

俺は…周子の夫となった。

さくらへの気持ちはすでに封印して…捨てた。

幸せな大家族の様子を、まるでドラマでも見ているかのように…傍観者となってそこにいた。

…俺の立ち位置はそんなもんだ。

そんな俺に、貴司と母親の優しさが沁みる日は…俺も特別な感情を抱いた。

この人達を…大事にしたい、と。


「私も、あなたの事を…少なからずとも…そして厚かましくも…息子のように思う日がありました。」

「厚かましいだなんて…」

「いいえ、厚かましいですよ…あなたは世界的に有名な方です。私なんかが母親気取りになるなんて、とんでもなく失礼な事です。」

そう言って母親は、めったに飲まないというコーヒーに口をつけて。

「あら…美味しい…」

小さく笑った。

そして…

「もし…あなたが私の事を母親と思って下さるなら…」

カップを眺めていた視線を、俺に向けた。

「…高原さん。」

「はい。」

「…お願いが、あるんです。」

「……」

そう言って、母親は…中腰になってテーブル越しに俺の耳元に顔を近付けて…手でそれを隠した。

俺も前のめりになって、母親の口元に耳を近付ける。

「…私が急死しても…解剖はさせないで下さい…」

「……」

ゆっくりと離れて行く母親が。

テーブルの前ではなく…はるか彼方に行ってしまう気がした。





…死なないで下さい。

そう言いたかったが…


言えなかった。

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