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いつか出逢ったあなた

登場人物全員が主役。スピンオフだらけの妄想恋愛小説。(大半がなんちゃってバンド系)

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テーマ:小説 > 恋愛

2017/09/15 22:17:15

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「…お母さん。」

私が声をかけると、母は少しウトウトしていたのか驚いたように顔を上げた。

「…なんですか。」

「ああ…いや、疲れているのに来なくていいんですよ?」

年が明けて三日。

私はまた病院に戻った。

入院する前は息苦しさや空咳が続いたりしたが、一時退院してからはそれもなくなって…

もしかすると元気になったんじゃ?とみんなは陰で噂をしていたようだが…

それはない。

最後の明かりが燃え尽きる前に、私をクリアにさせてくれているのかもしれない。


「…家にいてもする事がないんですよ。」

「ここにいてもないでしょう?」

「家で居眠りするよりは、ここの方が気が楽です。」

「ははっ…じゃあこちらに頭を乗せて、楽にして下さい。もしくはソファーに横になるとか。」

私の提案に、母は少し考えて。

「誰かが来たら困るのでソファーはやめときますよ。」

苦笑いをして…ベッドに両手を乗せると、その上に頭をゆっくりと置いた。

「…貴司。」

「はい。」

「色々…ありましたね。」

「…本当に。」

「…あなたが私の息子として来てくれて…私がどんなに幸せだったか…」

「……」

母の言葉に…私の心臓が大きく高鳴った。

近年、こんな事になったのは覚えがないほどの…高鳴りだ。


「テレビもラジオもない、地味で質素な生活をしていた私と華穂(かほ)の所に来てくれて…文句も言わずに桐生院の長男になってくれて…」

「お母さん…」

私は上半身を起こしたが、母は頭をベッドに乗せたまま。

「華穂が事故で死んだ時…私はあなたがいなかったら…後を追ってしまっていたでしょう。」

「…そんな事…」

「桐生院の生活は…あなたにとって楽しい物じゃなかったと思います。生活の音しか響かないような静かな家の中で、年頃の男の子が幸せなど感じる事はできないと分かっていましたが…私にはどうする事も…」

「……」

私は母の肩にそっと手を置いた。

「…私は…十分幸せでしたよ。」

本当に。

これ以上ないぐらいに…幸せだった。

「父の愛人の息子である私を…厳しく…そして優しく育てて下さった。ずっと、感謝の気持ちしか持っていませんでした。」

「愛人の息子だなんて、一度も思った事はありませんよ。あなたは最初から私の息子でした。」

「…っ…」

初めて…

病気だと知って、初めて…涙が出た。

私は…この愛しい人を置いて死ななくてはならないのか?

さくらには…まだ将来が、夢が残っている。

だが、母はもう高齢だ。

杖を使わず歩くほど元気だと言っても、風に煽られて倒れてしまいそうなほど痩せている。

「貴司…安心なさい…あなたを一人では逝かせやしませんよ…」

ふいに…母が静かな声で言った。

「…何を…」

涙を拭いながら答える。

「あなたと私が死んだ後にこそ、桐生院には新しい未来が訪れる事でしょう…」

「……」

「本当なら、華穂が死んだ時に終えていた命です。貴司に助けてもらった命です。あなたが終わる時には、私も終わりますよ。」

「…お母さん…」

それは…おかしな事に、とても力強く…大きな愛を感じた。

だが、私の命の事情に母を付き合わせるわけにはいかない。

「お気持ちだけで十分です。どうか…まだまだ長生きして、咲華と華月の結婚式を見届けてやって下さい。」

私がそう言うと、母は静かに顔を上げて。

「…そうですね…でもきっと、私はあなたが死んだら…心臓発作を起こして死にますよ。」

私に向かって…微笑んだ。

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