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いつか出逢ったあなた

登場人物全員が主役。スピンオフだらけの妄想恋愛小説。(大半がなんちゃってバンド系)

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テーマ:小説 > 恋愛

2017/09/14 20:54:07

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「……」

よほどバツが悪かったのか…

俺が椅子に座ると周子と瞳は黙った。


…この施設は基本、部屋のドアは開けっ放し。

俺が来た時、周子は『マシュー』の話をしていた。

…結婚を考えた相手がいたなんて、知らなかった。

精神的に不安定だった時も、ジェフの名前は出ていたが…

マシューという名前は一度も出た事がなかった。

しかも…事故で亡くなっていたとは…

それもまた、周子の中で思い出したくない出来事になっていたのかもしれない。

今更だが、周子が一度寝た切りのさくらに会いに来た時に…

もっと周子自身の話を聞いておけば良かったと思った。

当時の俺にそんな余裕があったかと言われると…今の俺に言わせれば、ゼロに等しいと思うが。


「…周子と初めて会ったのは向こうの事務所だった。」

俺が話し始めると、周子が少しだけ俺の方を向いた。

「高音が俺に似てるって。コーラスでどうかって言われて歌を聴いたが…」

「ダメだったの?」

瞳の早過ぎる問いかけに、周子はクスクス笑って。

「マノンにNG出されたのよ。」

早過ぎる回答をした。

まだこれから、俺が周子の歌についてどう思ったかを話そうと思ったのに。

気の早い女達め。

「どうしてNG?」

「声が似てるから面白くないって。」

「えーっ。マノンさん酷い。」

「でも、録音した物聴いたら確かにつまんなかったわ。これなら夏希が重ね緑りすればいいかなって。」

「もう…マノンさん…」

「でもマノンの意見に全員一致したのよ?」

「うそっ。信じらんない。」

二人の会話を聞いて、小さく笑う。

おい。

俺にも喋らせろ。


「瞳。」

「ん?」

「おまえを産んだと周子に聞かされた時、俺は頭の中が真っ白になった。」

「……」

「だが、話を聞いてすぐに会いたい気持ちが湧いた。」

そして…初めて会った我が娘は…

とても小さく可愛らしく…言いようのない愛しさが湧いた。

「調子のいい話だと思うだろうな…俺は周子と別れて…他の女と暮らし始めて…結婚まで考えてたからな。」

「父さん…」

「それでも、今まで抱いた事のない感情が湧いたんだ。間違いなく…勝手な気持ちなんだろうがな…」

俺の言葉に二人は黙った。

周子の右手は瞳が両手で握りしめている。

俺は…周子の左手をそっと握ると、ベッドに肘を着いて口元に当てた。


「好き勝手やってきた…俺は酷い男だな。」

結婚も子供も望まない。

周子にそう言いながらも…さくらにはそれを望んだ。

さっき周子が言ったように、さくらへの愛が勝っていたと言われたら、それも間違いではないのかもしれないが…

だが、俺にとって愛は量れる物じゃない。

ただ単に…俺の考え方が変わっただけだ。

相手と自分の年齢でそれが変わるなんて事は、あっても不思議はないと思う。

それぐらいのポリシーだったのかと言われるとそれまでだが。


だが、俺は周子が結婚を望んで子供も欲しいと初めに言っていたら…

ジェフに周子を奪われると嫉妬した瞬間に、結婚を申し出たかもしれない。

俺は意外と独占欲が強い。

しかしそれも、今そう思うだけで…


…今更言ってもどうにもならない事は言わないが…

全てはタイミング…

それで済ませてしまうには…大きな事過ぎるとしても。


「…好き勝手やってこその夏希よ…」

周子が俺の手を握り返す。

「もう…同志としか思われてないって…分かってたのに…止められなかった…」

「もう、昔の話はよそう。」

右手で周子の頭を撫でる。

精神的には落ち着いたが、周子は…身体を患っている。

「夏希…お願いがあるの…」

周子は俺から手を離して、溢れる涙を拭った。

「もし…あたしが死んだら…あの子と…結婚して…」

その言葉に…つい瞳と顔を見合わせた。

「ふっ…バカな事を言うな。おまえにはまだまだ長生きしてもらわなくちゃならないし、そもそもあいつも結婚してる。」

俺は笑いながら答えたが。

「あの子は…まだ若いわ…きっと…チャンスが来るから…」

周子は真顔でそう言う。

「…お願い…あたし…死んでも死にきれないわ…本当なら…今すぐあたしと別れて…あの子と結婚して欲しいぐらいよ…」

「……」

俺は溜息をついて。

「いいか、周子。聞け。」

周子の頭をグイ。と俺に向けて言った。

「もう全部昔の事だ。昔の事として簡単に片づけられないほど、おまえが苦しんでるのは分かるが…みんなそれぞれ今の生活がある。おまえはずっとここから出てないから時間が止まったままなのかもしれないが、みんな進んでるんだ。」

俺の言葉に周子は少し眉間にしわを寄せた。

何かを言いかけたが、俺は言わせずに続けた。

「今からの事を考えろ。治療に専念して、少し良くなったら家族でどこかに出かける夢を持ったっていいだろ?」

「そうよ母さん。みんなで温泉とか…どこか行きましょうよ。」

瞳の助けもあってか…周子は少しだけ目元を緩めて。

「…みんなで温泉…夢みたいな話ね…」

小さく笑った。

「それを夢として持ってくれるなら、次は叶える努力をしてくれ。」

「…叶えられるかしら…」

「叶えるんだ。」

もう一度、周子の手を握った。

俺と周子と、瞳と圭司と映。

五人で…温泉旅行なんて。

写真でも撮って見せたら、マノンやナオトは手を叩いて笑いそうだ、と周子は言った。

気が付いたら、俺も温泉は事務所の隣の湯ぐらいしか経験がない。


「雪の季節に行きたいわ…」

周子がそう言うと、瞳が笑顔になった。

「そうと決まったらスケジュールを空ける。」

「本当かしら。夏希、仕事が好きなクセに…」

「じゃあ約束だ。みんな12月の予定は空ける。瞳、おまえもだぞ。」

「分かったわ。」

「映にも学校休ませろ。」

「まあ、夏希ったら…」

周子が赤い目のまま…笑顔になった。

俺はそれを美しいと思った。

12月には、絶対に…家族で温泉旅行をしよう。

「指切り。」

俺が小指を出すと。

「もう…信じられない。夏希がこんな事…」

周子は笑いながら小指を出して、瞳は幸せそうに眼を閉じた…。

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