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いつか出逢ったあなた

登場人物全員が主役。スピンオフだらけの妄想恋愛小説。(大半がなんちゃってバンド系)

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テーマ:小説 > 恋愛

2017/09/09 17:24:12

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「お帰りになられるのですか?」

披露宴の後、会場を出ていると…貴司に声をかけられた。

「ああ…この後は身内だけのパーティーだろう?」

「是非来ていただきたいのですが…」

「嬉しい誘いだが、遠慮しておくよ。周子の所にも行きたいし。」

俺がそう言うと。

「奥様…落ち着かれましたか?」

貴司は赤い目のまま、そう言った。

周子は…兄貴が面会に来た後から、調子がいい。

調子がいい間に、色々話して決めておきたい事もあって…

最近の俺は、頻繁に周子の所に通っている。


「ああ、何とか。」

「そうですか…」

「…感動だったな。」

少し寂しそうな顔をした貴司の肩に手を掛ける。

「麗は…おまえの娘だよ。」

「…そうですね…私は…自分を恥じました…」

「……おめでとう。じゃ、またな。」

「ありがとうございました。」

貴司と別れて会場を出る。

タクシーに乗ってネクタイを緩めて…一息ついた。


SHE'S-HE'Sが余興で『Thank You For Loving Me』を歌った。

俺が…さくらに贈った曲だ。

…正直、桐生院家のテーブルに目を向けられなかったし…

わざと、違う事を考えたりした。

あれがさくらに贈られた曲だなんて、知った奴はここにはいない。

そう言い聞かせたものの…内心穏やかじゃなかった。


「……」

窓の外を眺めながら、最後の場面を思い出した。

…さくらは…すっかり麗の母親として…桐生院に溶け込んでいるんだな。

俺は、あの感動の場面を…何か映画でも見ているかのように…静かに見ていた。

さくらは、もう俺とは別世界にいて。

手の届かない存在だ…と。

そんな気分で…二人を見た。


…嬉しい事だ。

誰よりも大切に想うさくらが、母として慕われて…

家族として認められて…

これからも、桐生院で幸せに暮らしていけるんだ。

もう、俺の出る幕はない。


「高原様。」

ふいに、運転手に名前を呼ばれて、深く沈み込んでいたシートから体を起こす。

「…誰だ。」

「失礼いたしました。わたくし、葛西と申します。」

「…葛西?」

「二人目の『サカエ』は私の妻でした。」

「……」

つい…走っている景色を見渡した。

俺はどこかへ…?

そんな俺を察したのか。

「ご安心ください。言われた通りの場所にお連れ致します。」

葛西は、淡々とした口調で言った。

「…何なんだ。」

「長い間、さくらがお世話になっていたので…さくらに関わっていた者全てから、あなたは感謝されています。」

「…ふっ…」

小さく笑って、もう一度シートに深く沈む。

「笑わせるな。さくらの記憶が戻ったらとビクビクして、さくらから色々な物を奪い続けていたクセに。」

「……」

「二階堂は、さくらを殺したも同然だ…。」

…本当に。

二階堂はさくらを殺したし…

俺をも殺した。

今となっては…さくらの今の幸せを守りたいと願うが…

本来なら…と。

今もどこかで、毒気付く俺がいる。

そんな自分を恥じたり悔やんだりしながら…

俺は一生、生きた心地はしないままなんだ。


「…新婦様がおっしゃっていましたよね。」

「…何を。」

「セミ捕りをしたり、砂場で有り得ない物を作ったり…」

それがどうした。と言いたい所だが…

普通に聞くだけなら、『元気なお母さん』で済まされそうなそれは、桐生院家と俺にとっては…

『どうしてこんな事が?』と言うレベルだ。

さくらは木に止まっているセミを捕るんじゃなく…

飛んでいるセミを捕る。

しかも、絶対逃がさない。

そして、砂場で作る物も、城だけじゃなく…

一度、人の形を作って、そのリアルさに子供達が泣いた。と、ばーさんから聞いた。


「さくらの本能は…あの頃のままです。」

「……」

「確かに私達は、さくらの記憶が戻るのを恐れています。」

葛西は赤信号で停まって、少しだけ俺を振り返った。

「ですから…記憶が戻る事で、さくらの本能が間違った方向に動かないよう…見守り続けるだけです。」

「…まさか、陸と麗の結婚は故意じゃないだろうな。」

俺が低い声で言うと、信号が変わると同時に前を向いた葛西は。

「まさか。そんな事まで操れません。それに…坊ちゃんが一般人と結婚するのは二階堂にとっては痛手です。」

そう言って、車をスタートさせた。

「…痛手?」

「元々二階堂の者は二階堂の者としか婚姻関係を結びません。頭は…そんな古い体制を変えようとされていますが…まだ早過ぎました。」

「…どういう事だ?」

「…着きました。」

「……」

金を払おうとすると、タクシーだとばかり思っていたその車にはメーターも何もなく。

当然、葛西も金は受け取らなかった。

「お元気で。」

葛西は静かな声でそう言うと、今来た方向へと車を走らせて行った。


施設の前で一人佇みながら…

さくらの事を…考えた。

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