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いつか出逢ったあなた

登場人物全員が主役。スピンオフだらけの妄想恋愛小説。(大半がなんちゃってバンド系)

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テーマ:小説 > 恋愛

2017/09/07 23:35:24

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『これ、朝霧さんのギターですよね。』

里中さんが、そう言って…ギターを見せた。

『俺のギターは直らなかった。だけど、きっと…朝霧さんはほっとけなかったんですよね…俺が、息子さんと年が近かったから…息子さんと重ねてしまって。』

会場中、みんな…スクリーンに目が釘付けだ。

立ったままだった親父は…母さんに手を引かれて、やっと…座った。

『朝霧さん、音楽屋で…言ってましたよね。俺の息子もギタリストになんねんでーって。』

「……」

『俺が、ずっと泣いてて…だから、朝霧さん、気を紛らわそうとして、色々話してくれました。うちの息子は、ホンマ優しい子でなー、母親の手伝いもするし、妹の面倒も見るし、俺の肩も揉んでくれるし、ホンマええ子なんやでー。って。』

「……」

『だけど、息子自慢された俺は…反対に自分がダメ人間みたいに思えて、余計泣いちゃったもんだから…朝霧さん、ごめんごめんって。』

何なんだよ…ほんと…

『俺も…両親好きだから、親が自分の事誉めてくれると、すっげ嬉しくて…だから、すごく羨ましかった。朝霧さんの息子…すげー愛されてんなーって。』

「……」

もう…会場中が、涙だった。

だが…俺だけは、泣かなかった。

何なんだよ。

この…茶番は。

溜息をつきながら、俺は手元のビールを見つめた。

…早く…早く終われ。


『あの時、朝霧さんがすごく息子自慢してたから…俺、勉強も音楽も、親孝行も頑張ろうって決めて…やっとデビュー出来た。でもなんか中途半端で…朝霧さんにも名乗り出れないまま…』

画面の里中さんも…なぜか、目を潤ませている…

『本当は、違う形で告白したかったけど…でも、俺がずっと温めてた想いが…サプライズになるならと思って…。』

…こんなサプライズ…

イライラして眉間にしわが入ったまま、俺は手元のグラスを持ち上げようとして…

『朝霧光史。』

名前を呼ばれて、映像なのに…つい、里中さんを見た。

『おまえの親父さん、世界のDeep Redのマノンで、F'sのマノンで…』

「……」

『おまえの、最高のヒーローだよな。』

な…

何がヒーローだ。

ヒーローなわけが…

『音楽屋の人も言ってた。家族自慢が始まると終わらないんだよ~ってさ。俺、会った事もないおまえの事、すっげー羨ましかった。』

…何が…家族自慢だよ…


渉が産まれた日。

深夜の病院で…俺は不安に泣き疲れて眠った鈴亜を背負って、廊下を往復していた。

いつも頼りにしてると言うか…家族同然の付き合いをしていた聖子の家族は。

イギリスに留学中の長女の愛さんが怪我をしたと連絡が入って、一家そろって渡英したばかりだった。

…タイミングが悪かったのは分かる。

色んな…不運が重なっただけだ。

不運どころか、親父は人助けをした。

名誉な事だとは思う。

だが…

どうして、母さんが大変な時に?と…

どうしても…

許せない気持ちが湧く。


あれから、親父は毎月花束を買って帰る。

二人の間に、そういう約束が交わされたのかどうかは知らないが。

とにかく…毎月。

親父がそれを忘れている月の母さんは…

俺以上に冷たい気がする。


『結婚、おめでとう。お幸せに。』

里中さんがそう言った後、スクリーンが暗転した。

…はあ…

やっと終わった…

そう肩の力を抜きかけた所に…

『光史、瑠歌ちゃん、結婚おめでとう。』

……母さんが、映った。

「え?」

「は?」

「んん?」

会場からも、不思議そうな声が…

『そして…真音、ごめんね。さっきの里中君の映像、ずーっと、あたしが隠し持ってました。』

親父が口を開けたまま、隣にいる母さんを見る。

『理由は…ただ、悔しかったから。それだけ…』

瑠歌が、俺の手を握って。

「…これ…大丈夫なの…?」

小声で聞いてきた。

「…さあ…」

『どうしても、あたし達は…真音の一番になれないんだなあって……ごめん。』

近くの席にいた浅井さんが、何か思い当たるのか…小さく笑った。

…浅井さんが笑うって事は…

親父と母さんは、昔から、こうなんだろうな…


『今日、ここに来て下さってる皆さん、ごめんなさい。すごくすごく、みっともないのを覚悟して…喋ってます。』

そう言って、母さんは深々と頭を下げた。

『夫の仕事を理解してるつもりでも…ずっとヤキモチも妬いて…あたしのそんなくだらない想いで、朝霧家はうわべだけの家族でした。』


…母さんは…音楽家の家に生まれた箱入り娘だった。

そんな母さんを好きになった親父は、音楽とは言っても畑違いなハードロックな世界に母さんを引っ張り込んだ。

母さんは今も一人で家にいる時には、クラッシックを聴く。

それを…きっと、親父は知らない。


『あたし達…ずっと…家族になれてなかったね…』

母さんの言葉に…親父が立ち上がった。

立ち上がって…母さんの手を取ると…ギュッと抱きしめた。

『だけど、もう…我慢とか、嫌なの。』

会場がざわめいた。

こんな席で…離婚か?と、囁く声も聞こえた。

が…

『光史、この機会に…あたし達、みんな家族になりましょ。』

母さんは…涙目だったけど、笑顔だった。

『真音には、一番も二番もないって解ってる…解ってるつもり…だったけど…やっぱりダメね。あたし…昔とちっとも変わってない。ずーっと音楽にヤキモチやきっぱなし。』

その言葉に、会場のあちこちで胸を押さえる仕草が見えた。

…親父と同類は多いらしい。

『だけど、ギターを弾いてる真音が好きなのも事実なのに…矛盾してるよね。』

親父は…母さんを抱きしめたまま。

母さんのセリフのたびに、何かを呟いて涙を拭っている。

『瑠歌ちゃんが来てくれて…家族が増えた。だから…ちゃんとした家族になりましょ。もう…我慢なんかしない。言いたい事は言って、時々ちゃんとぶつかって…もう…物分かりのいいフリなんて、しない。』

「……」

『時間かかったけど…家族になりましょ?』

「光史…」

瑠歌が、俺を見上げる。

『あたしは、そうなりたい。』


鈴亜と渉には…何の事か分からないと思ったが…二人もハンカチを手に泣いている。

『お兄ちゃん、お父さんに冷たーい。』

何度も…二人には、そう言われて来た。

そして…

『父さんって優しいけど…怒らないよね。それに、あまり家に居ないしさ…。あたし達の事、どうでもいいのかなあって思っちゃう。』

鈴亜は…親父に、そんな印象を持っていた。


メンバーにも…言われた。

『おまえ、時々朝霧さんに冷たいな。』

『光史、どうしてたまに朝霧さんに敬語になるの?』


そんなの…

…親父は…


『マノン』だからだよ。

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