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いつか出逢ったあなた

登場人物全員が主役。スピンオフだらけの妄想恋愛小説。(大半がなんちゃってバンド系)

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テーマ:小説 > 恋愛

2017/08/31 23:15:29

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「さ、千里さん。今のうちに。」

ばーさんにそう言われて、俺は裏口から出る。

「…知花は?」

「買い物に行かせました。」

「花を?」

「ええ。」

「…どこの花屋ですか?」

「え?」

「とーしゃん!!」

「とーしゃん!!」

俺が座って靴を履いていると、背中に華音と咲華がしがみついて来た。

「うわっ…ははっ。おまえら力強くなったな。」

二人を抱き寄せて…しばらくその温もりを堪能する。

…こんなにコソコソする理由なんて…もう、ないよな。

今まで、桐生院家のみんなの好意に甘えてたけど…

それも、もうじき…終わる。


「表通りの『映華』さんですよ。」

ばーさんがそう言って、その店からもらったらしい葉書を見せてくれた。

そこには、店の地図と写真。

…音楽屋の近くか。

「ありがとうございます。」

ばーさんに礼を言って、華音と咲華の頭を撫でて。

「またな。」

目線を合わせて言うと。

「……」

「……」

二人は同時に、唇を尖らせた。

…そんな顔すんなよ…

心の中でそう思いながら…俺は自転車を押して外に出た。


自転車を走らせて、表通りへ。

映華という店は、音楽屋とは反対側の…俺が普段通らない場所にあった。

…最近は、ここを通るとカナリアに一直線だったからな…

花屋なんて、気にも留めなかった。


ゆっくりと花屋の前を通り過ぎようとして…

「……」

知花…どうした?

長かった髪の毛…

バッサリ…ショートカットになっている。

俺はその後ろ姿…そして横顔を見つめた。

…ガキみてーじゃんかよ。

つい、小さく笑った。


「何悩んでんだ。」

自転車に寄りかかって、後ろから声をかけると。

「…千里…」

知花は驚いた顔で振り返った。

「また思いきって切ったな。髪の毛。」

「…よく後ろから見て、あたしだってわかったね。」

「足だけでもわかるさ。」

ああ。

本当に。

手だけでも…足だけでも分かる。

「飾んのか?」

もっと近くで顔を見たくて…

自転車を立てかけて、知花の隣に並ぶ。

「…母さんが、アレンジメントするって…」

「アレンジ?」

「あの…ほら、そこにあるようなの。」

店を見渡すふりをして…さりげなく、知花を見る。

あの頃より…少し痩せたんじゃないか?

ちゃんと食ってんのかよ。


「お待たせ…あ、いらっしゃい。」

ふいに、店の奥から女性店員が花を持って出て来た。

「こんにちは。」

知花のリクエストなのか…二人はその花を手にして、何か意見を出し合っている。

俺はその辺にある花を眺めて…

「おまえの好みでいいじゃん。」

口を挟んだ。

「え?」

「親子だから似たようなもんだろ。おまえが使いたいの、選べばいいじゃねーの。」

「……」

さくらさんは…ずっと眠ったままだったからなのか、俺から見ると…知花と双子のように思える時がある。

だったら、知花が好きな物は、きっと好きだ。

そう感じた。


「なんだっけ、これ。おまえが玄関でおっことしたやつ。」

見覚えのある花に触れて言うと。

「あ…あれは、千里が悪いのよ。」

「なんで俺?」

「いきなり帰ってきたから驚いて…」

「おー、これも見たことあるな。サラダん中入ってたやつ。」

「…別にわざと入れたわけじゃ…」

「あ、俺、これが好き。これに赤い花とか合わせてたよな。」

「…うん。」

…何だろうな。

あのマンションの…最後の思い出は、最悪だった。

部屋の中だけじゃない。

あちこちで暴れて…迷惑をかけた。

…知花との思い出を、消し去りたかった。


なのに…今は。

幸せと思えた日々が蘇る。

知花はまだ…俺の事なんて、ただの偽装結婚相手としてしか思ってなかった頃かもしれねーけど。

…俺には…

穏やかで、柔らかい空気。

俺の居場所。

…あの頃が…懐かしい。


「ブルースターって花なんですよ。」

店員がそう言った。

「なんか、そのまんまの名前ですね。」

ブルースター…な。

それを手にしたままでいると。

「花言葉は、信じ合う心…だったかな?」

「……」

つい、黙ってしまった。

…信じ合う心…


「ど…どれにしようかな…」

相変わらず、動揺が表に出るタイプだな。

知花の様子を見て小さく笑いながら。

「ま、早く選んで帰れよ。暗くなんぞ。」

知花の頭を突いた。

「……」

「じゃあな。」

「待って。」

自転車に手を掛けた所で…呼び止められた。

「…あたしに…」

「あ?」

「あたしに、花を贈るとしたら、どれをくれる?」

「…俺が?おまえに?」

「…うん。」

いきなりハードルの高い質問をされて…内心…かなり真剣に考えた。

が、俺に花の名前なんて分かるはずもない。

だが…

知花は…俺の知ってる可愛い花に似てる。

気がする。

「さあなー…チューリップかカーネーションかヒマワリか…」

「知ってる花じゃなくて、あたしに…贈りたい花よ?」

図星を突かれて、笑いを堪える。

男が知ってる花なんて、せいぜいこれにバラとすみれぐらいだ。

「おまえのイメージで言ったんだけどな…」

俺は前髪をかきあげながら、店を見渡して…

…あ、あれかな。

「あれあれ。レジの横んとこのカップに入ってるやつ。」

知花から見たら、たぶん…ガッカリする花だったかもしれない。

でも、今俺が知花に贈りたいのは…

豪華な花束でも、高価な花でもない。

ただ、そこにある花…

そんな感じのもの。


「じゃあな、俺は帰るぜ。」

「…うん…」

案の定、知花は少し拗ねた唇だったが…

俺は正直に言ったまでだ。


それにしても…

ショートカットの知花…

可愛かったな。

…ちくしょー。

抱きしめてーな…。

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