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いつか出逢ったあなた

登場人物全員が主役。スピンオフだらけの妄想恋愛小説。(大半がなんちゃってバンド系)

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テーマ:小説 > 恋愛

2017/08/29 23:25:58

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「…海は海だけど…」

あたし、少しだけ唇を尖らせる。

図書館の後…なっちゃんは車を走らせて、海に連れて来てくれたけど…

…埠頭。

何だか、怪しそうな倉庫が並んでて…

昔、こういうのってテレビか何かで見たような?って思った。


「…砂浜がある海が良かった。」

あたしがすねた口調で言うと。

「そこまで行くと、帰りが遅くなる。」

なっちゃんは淡々と答えた。

「別に遅くなったって…」

遅くなったって…二人だけだし。

なっちゃんは仕事行ってないし。

…言ってしまいそうになって、やめた。


「まだ本調子じゃないんだ。無理をさせたくない。」

「あたしは平気なのに。」

「何年寝たきりだったと思ってるんだ。」

「…周子さんとは、砂浜に行ったクセに…」

「…なんだそれ。」

我慢…してたけど。

あたし…つい、本音を言ってしまった。

だって…

だって、あの日。

瞳ちゃんの…結婚式だった、あの日。

なっちゃんは、遅くに帰って来て。

いつもみたいに、あたしの額に触れて…キスした。

袖口から、潮の香りがした。

ああ…海に行ったんだ。って、気が付いた。

そして、それはこういう埠頭じゃないって…今まさに気付いた。

匂いが全然違う。


「…おまえはどこにも行ける状況じゃなかったんだから、仕方ないだろ。」

あたしの言葉にムッとしたのか、なっちゃんも少し…低くて早口な嫌味を返して来た。

「あたし…あの日誕生日だったのに…」

「……」

瞳ちゃんの結婚式の日は…

あたしの誕生日だった。

38歳だなんて、自分でも信じられない。

だって、あたしの心の中って言うか…

あたしの気持ちは、21歳ぐらいで停まってるんだもん…


ちゃんと、前の日にお祝いしてくれた。

ガーベラ、買って帰ってくれた。

おめでとうって、何度も頭を撫でて…

だけど、明日周子さんと『夫婦』として瞳ちゃんの結婚式に出るんだって思うと、あたしは嬉しくなかった。


…分かってた…。

こんなの…妬いたって…どうにもならないって。


なっちゃん…怒ってるよね。

傷付いてるよね。

あたしが…桐生院に帰るって…

それ以前に…

なっちゃんじゃない人と結婚して…知花を産んだ。

…怒るよ…当然だよ…

秘密にしてた事だし…

なのに、あたしの事…捨てずに…今も、一緒にいてくれる…

なっちゃん、やっぱり…いい人間だよ…


なのにあたし…

周子さんや瞳ちゃんに妬いたり…

自分は桐生院に帰ろうとしてるクセに…

本当…くだらない…こんなの…


「…あたし…」

あたし…

やっぱり、なっちゃんといたい…

もし…

もし、知花の事…なっちゃんが受け入れてくれるなら…

あたし…

やっぱり、なっちゃんといたい…


「…なっちゃん…瞳ちゃんの事…大事だよね…?」

うつむいたまま…問いかける。

「…ああ。」

「…子供、要らないって言ってたのに…すっかり…いいパパだよね…」

「……」

ああ、やだな…

あたし、何が言いたいんだろう…

これじゃ、ただの嫌味だよ…


そうじゃない。

そうじゃなくて…

なっちゃん、瞳ちゃん以外に…子供がいたら…

どうする…?


「…さくら。」

ふいに、なっちゃんがあたしの手を握った。

「…え?」

「…愛してる。」

なっちゃんの視線は、海に向いたまま。

「…さくらは…どうなんだ?」

「…目を見て…言ってよ。」

「……」

あたしがそう言うと、なっちゃんはゆっくりと…あたしを見て。

「…愛してる。」

もう一度…言った。

「……」

胸が…締め付けられた。

あたしは、桐生院に戻るって言いながら…なっちゃんを試してるみたいで。

この言葉…

誰よりも…なっちゃんが欲しい言葉だって分かってるのに…

「なっちゃん…」

「さくら…ここで…俺と一緒に…」

「………え?」

強く握られた手。

そこから…なっちゃんの想いが伝わった気がした。

ここで…一緒に…?


しばらく見つめ合った。

ここで…どうするの?

なっちゃん…まさか…


あたしが息を飲むと、なっちゃんは車のエンジンをかけて、バックし始めた。

「なっちゃん…」

「俺達は…ずっと一緒だ…」

「なっちゃん。」

「さくら…」

バックしてた車が停まって。

次の瞬間…なっちゃんはアクセルを強く踏んだ。


一緒に…

永遠に一緒に居られたら…

二人で死んだら、誰にも邪魔される事なく、二人で…ずっと二人きりで…居られるね。

……だけど。


瞳ちゃんは?

周子さんは?

…知花は?


「なっちゃん!!駄目!!」

あたしは、なっちゃんの身体に抱きついて…片手でサイドブレーキを引いた。

車は大きくスピンして、近くに連ねて置いてあったドラム缶をなぎ倒して、堤防のそばで…停まった。

「……」

「……」

「…バカ!!」

「……」

「なっちゃん…バカ…」

あたしは…なっちゃんにしがみついて…泣いた。

だけどなっちゃんは、ハンドルに寄りかかったまま…動かない。

「…なっちゃん…?」

「…本当に…バカだな…俺は…」

「……なっちゃん…」

あたしが…そうさせた。

分かってる…

……ううん…分かってない。

あたし、分かってないから…

なっちゃんを、ここまで追い詰めたんだ…。


「なっちゃん、あたし…」

これからも、なっちゃんと一緒にいる選択…

まだ…

間に合う?

なっちゃん、あたしを…

受け入れてくれる?


「…俺は…」

あたしが息を飲んだ瞬間。

なっちゃんが…口を開いた。

「…周子と結婚する。」

「…………え?」

……なっちゃん…

今…

なんて…?


「これで…おまえも肩の荷が下りるだろ…」

なっちゃんはそう言うと車から降りて、車体が傷付いてるのを見て…小さく笑った。

しばらく…そうして外に立ってたなっちゃんは。

「……悪かったな…怖い想いさせて。」

…静かに運転席に座って、あたしの頭を撫でた。


あたしは…

自分から手を離した。


「帰ろう。」

もう…

何も言う資格なんてない。



誰にも。

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コメント2

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  1. ヒカリさん(99歳)ID:6591233・08/30

    アイさん
    私がドSでドMなばっかりに、酷い事したりされたり( ´Д` )
    いつも二人は自分の幸せを自分から手放しちゃってますね…
    お互いがきちんと気持ちを伝えられる日が来るのでしょうか。

  2. アイさん(51歳)ID:6590991・08/29

    いつも、ふたりは想いあっているのに…
    相手を想って、まわりを気遣って、すれ違ってる…
    あとひとことが言えたらって場面がいっぱい
    最後は、一緒にいられるようにして欲しい

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