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いつか出逢ったあなた

登場人物全員が主役。スピンオフだらけの妄想恋愛小説。(大半がなんちゃってバンド系)

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テーマ:小説 > 恋愛

2017/08/29 22:04:02

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「……」

ベッドの脇に座って、さくらの頬に手を当てる。

柔らかい髪の毛…白い肌…

…手を…離せるのか?

さくらと離れて…俺は平気なのか?

あの時のように…歌えなく…


…もう、歌ってないじゃないか。

たまに気が向いたら…ってアルバムを作って来たが。

それも、もうしばらくはないだろう。

ナオトとマノンはバンドを組む。

ゼブラは家族で始めた雑貨屋が忙しそうだし。

ミツグも、時々ドラムクリニックを開く程度の今のスタンスを好んでいる。


…そうか。

俺は…いつかこんな時が来るかもしれないと…予感していたのかもしれないな。

さくらと再会する前から。

無期限の活動休止を決めたあの日…

もう、俺は…死んでいたんだ。


「…なっちゃ…ん…?」

さくらが、目を開けた。

「…起こしたか。」

「…あたし…どうしたのかな…」

あの男…陸の父親…二階堂翔の言った事は…本当だったんだろうか。

サカエさんとは違って、彼は俺の記憶を消さなかった。

…受け止めなくてはならない。

さくらは…

戦士として育てられ…

テロリスト達を、一人で射殺した…

それに…

…動けるし、言葉も出せる。


「…このままじゃ…」

小さくつぶやくと、さくらは体を少し動かした。

「…桐生院に…帰るんだろ。このままじゃ…駄目だろ。」

「…なっちゃん…」

さくらの手を持って…身体を起こす。

隣に座って…小さく深呼吸をした。


「…名前は?」

俺の問いかけに、さくらは不思議そうな顔をして。

「…森崎…さくら…」

小さな声だが…ハッキリした口調で言った。

ずっと…待ち焦がれていた…さくらの…声。

かすれたような、小さな声じゃなく…

ずっと聞きたかった…さくらの…


「俺の名前は?」

「…高原夏希…」

「もう一度…」

「…高原…夏希…」

目を閉じて…さくらの声を聞いた。

愛しい…さくらの声を…


「さくらの…娘の名前は…?」

「……」

「…言ってくれ。」

「……知花…」

「…父親は?」

「……」

「……」

「…桐生院…貴司さん…」

「…どこで…知り合った?」

「……」

「怒らないから、言ってくれ。」

隣に居るのに…俺は視線をさくらには向けなかった。

ひたすら、さくらの声だけを拾った。

「…よく…覚えてないけど…桜の絵葉書をもらったの…」

「……」

俺はゆっくり立ち上がると、本棚の引き出しに入れてあるそれを取り出した。

「…これか。」

さくらに手渡して、さっきと同じように隣に座る。

「……」

「誕生日に…もらったと言ってた。」

絵葉書を手にしたさくらは、無言でそれを見つめて…そして俺の横顔を見た。

さくらの視線を感じながらも…俺にはもう…それを直視する気力はなかった。


俺が…さくらに『If it's love』を贈った日…

さくらは、桐生院貴司に絵葉書をもらった。

まだ始まってはいなかったかもしれないが…キッカケになった日なのかもしれない。

そう思うと…

ただただ…虚しかった…。


「…歌ってた事は、覚えてるのか?」

足元に視線を落としたまま問いかけると。

「…よく分からない…」

さくらは、少し涙声で答えた。

…泣きたいのは…こっちだ…

だが…


俺には、泣く資格さえないと感じた。

さくらが寝たきりなのをいい事に…自分は周子と瞳には自由に会った。

伝えるのが誠意だ、と…会っている事を話して。

さくらはどれだけ…傷付いていた事だろう。

おまけに俺は、選ぼうとしなかった。

さくらと結婚したいと思う反面、周子を…瞳を傷付けるのが怖くて…選べなかった。

…いや、選ばなかった。

そして、ここ数日、俺は…さくらの意思など無視して…さくらを抱いた。

裏切られた。

傷付けられた…なんて…

自分勝手な思いだけで…さくらを抱いた。

この腕に、この身体に、さくらを感じていないと…不安だった。

だが結局は、そんな事をしても…さくらの気持ちは変わらない。

誰よりも大事な存在…

娘である知花…

そして、その父親である桐生院貴司…


孤児だったさくらが…家族を持てるんだ。

喜びでしかない。

…そうだろ?

…そうだよな…?

…頼む…強がりでもいい…

いい男のまま…さくらを見送らせてくれ…

頑張れよ…俺…


「…なっちゃん…」

ふいに…さくらが俺の腕に触れた。

一瞬、視線が動いたが…俺はすぐ…目を閉じた。

もう…俺からさくらに触れる事はない。

さくらは…人のものだ。


「…なっちゃん…ずっと…ありがとう…」

「……」

「感謝してる…」

「……」

「なっちゃんは…あたしの…」

「……」

「…あたしの………」

これ以上…

これ以上聞いたら、俺は…

俺は、さくらを殺して、自分も死んでしまうかもしれない。

そう思った。

離したくない。

帰したくない。

俺からさくらを取ったら…俺なんて…


「…なっちゃん…?」

立ち上がった俺に、さくらが声をかける。

「…家の中、見た事ないだろ。回ってみるといい。」

俺はそうとだけ言うと…部屋を出ようと…

「待って。」

「……」

腕を取られる。

「…一緒に…回って?」

「……」

さくらが、俺の手を握った。

…おい。

おまえ、人妻なんだぞ?

何年も離れてたから、婚姻関係は無効としても…

そうやって、薬指に…

知花から渡されたんだろう?

だとしたら、桐生院家からは、迎え入れてもらえるって事だよな?

もう…俺に触れんなよ…

頼むから…


心の中で毒を吐きながら…

俺は小さく笑った。


「…そうだな。」

「……」

「…最後の役目は…俺がする。」

最後の役目…


俺が…さくらに出来る…


最後の事。


それは…


それは…

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コメント2

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  1. ヒカリさん(99歳)ID:6591231・08/30

    ナナセさん
    ホントですよーーーーー‼︎
    私がドSなばっかりにーーーーー( ´Д` )

  2. ナナセさん(102歳)ID:6590940・08/29

    なっちゃんが、か わ い そー だーーーーーー(>_<)

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