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いつか出逢ったあなた

登場人物全員が主役。スピンオフだらけの妄想恋愛小説。(大半がなんちゃってバンド系)

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テーマ:小説 > 恋愛

2017/08/13 12:42:47

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夏希にお願いして、少しの間だけ…さくらちゃんと二人きりにならせてもらった。


ベッドに横たわったさくらちゃんは、話に聞いていた通り…

目は開いているけれど…無表情で…うつろな視線は、どこを見ているのか…

それは、遠い昔でもあるかのような気がした。


「……さくらちゃん。」

あたしは…ゆっくりと、さくらちゃんの手を取った。

すると、少しだけ…うつろだった視線が、あたしに向けられた。

だけどそれは向けられただけで…

あたしが誰かを認識している気はしなかった。


…あたしは、歳を取った。

夏希なんて…まるであの頃のまま?って聞きたくなるぐらい変わってないのに。

そして、さくらちゃんも…

まだ十代かと思うような…あどけなさが残ったまま。


「…誰か分からないかもしれないけど…あなたの…歌のファンよ?」

当然だけど、さくらちゃんから返事はないし…

少し眠そうな視線は…まぶたによって遮られた。


さっき、夏希がこの家を任していると言っていた『サカエさん』と言う人も言っていたけど。

一度に多くを望むのは…疲れるはずだ。


あたしは、一方的に声をかけることにした。

それが自己満足と…贖罪の念に駆られた衝動にしかすぎなくても。


…良くなって欲しい。

そんな気持ちは…

あるのか、ないのか…分からない。

だって…

あたしは今も…夏希の事を想っている。

だから…こうして一緒に居られるこの子が…羨ましい。

こんな形ではあっても…

何より夏希に愛されている。

その事実が…羨ましい。


だけど、自分の罪は罪として…謝罪したかった。


「…さくらちゃん…ごめんなさい。あたしのせいね…」

小さな手を握って、ゆっくりと言葉を吐き出す。

「あたしが…酷い事を言ったせいで…さくらちゃん、夏希の所を飛び出して…」

44歳になった今も…

あたしは、あの日…この子に吐きだした言葉の醜さを思い出さない日はない。

『幸せになるなんて、許さない』

…あたしは…なんて愚かなんだろう…


「…さくらちゃん…あなたは…夏希に愛されてて…いいわね。」

閉じたまぶたは、開かなかった。

眠ったのかもしれない。

「こんなに…ずっと…愛されるなんて…本当、羨ましい。」

髪の毛に…触れてみる。

「…あなたの事…妹みたいに…可愛く思ったのよ…?本当よ…?」

ええ…そうよ。

本当に…

くるくる変わる表情。

屈託ない笑顔。

夏希の隣は似合いそうにないって思うほど、子供っぽい気がしてた。

だけど…

夏希は、あの笑顔に…癒されていたはず。

あたしだって…

カプリでのステージで…さくらちゃんの歌を聴いた日は、自然と鼻歌が出た。


「…こうなっても…あなたを羨ましいって思うなんて…あたし、本当に最低な人間ね…」

髪の毛を撫でながら、続けた。

「…瞳がね…こっちに来るの。あなたの事は覚えてないと思うけど…あの子、いつもあなたの歌を聴くとゴキゲンだった…」

小さな瞳が、さくらちゃんの歌を聴いて笑顔になるのを。

あたしは…幸せな気持ちで見つめた。

…そうよ…

あたし…この子に幸せをもらってたじゃない…


「……さくらちゃん…」

涙が溢れた。

あたしは愚かで…貪欲な事さえ気付こうとしなかった。

瞳を産んだ事で、十分な幸せも得られた。

なのに…

別れた夏希の事をずっと引きずって…

さくらちゃんの身を案じる事もできないなんて…


「お願い…元気になって…」

心から、そう思った。

元気になって…


あたしが出来なかった分まで…



夏希を幸せにして。

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