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ユキさんのブログ

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マダにだけ聞こえる声

しおりをはさむ

テーマ:小説 > 恋愛

2017/08/07 12:06:37

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それがわかったのは
パリから帰ってきてたったの4日後だった

体調が悪かった
治ったと思っていた病気が
そうちゃんを失ってまた始まったと思った

心配症の先生はすぐ川下先生の予約を取って
私は久しぶりに医療センターの精神科に行った
本当に何年かぶりに
また薬が始まる
そう思ったのに川下先生は思いもしない言葉を口にした

「かなちゃん、連絡したから
 婦人科の外来に行ってきて」

気持ちは確かに落ち込んでいた
何かしてないと涙がこぼれて
そうちゃんのこのとばかり考えた
後悔して
後悔しかなくて
そしてそれが先生に悪くて

ツラかった


「予定日は6月25日ですね
 母子手帳もらいに行って下さいね」


白黒の写真を何枚かもらって
よく理解できてない私は
その足で救急に向かっていた

「え、かな?まさか…診察?」

お父さんの焦った顔が焦りを隠そうとして
でも隠しきれてなくて

「お父さん…これ見て」

今もらった写真をお父さんに渡したら
お父さんは真っ白になったみたいな顔した

「マ…マジか!」

大きな声出すから、みんなこっちを見た

こんな報告を何故最初に父親にしたのか意味不明だけど、何も考えられなかった頭が救急に足を向かわせていた


家に帰ってもやっぱりぼーっとして
妊娠の事実も、私がお母さんになる事も
何も考えられなかったし理解できなかった

欲しくて作ったはずなのに
こころのどこかで出来ると思ってなかった



その夜、帰って来た先生は
いつも通りキッチンでギューってして、髪に頬に首にチュッチュ
で、口にキスする前に今日の事を聞いた
「川下先生なんだって?大丈夫?
 明日は行けそうだから
 僕も行って説明聞い…て…」
先生はキッチンカウンターの上に置いてたそれを見つけ、テープの残量不足みたいに音声が途切れた

「予定日6月25日だって
 もう3ヶ月に入るって」

「ちょ……待っ…」

久々見たその顔
衝撃を消化しきれてない顔
高三の体育祭以来
あれは妊娠と同等な程の衝撃だったの?

「あ…赤…ちゃん…?」

「ウサギではない」

「や…だって…」

「あ、焦げた」
ただいまハグのまま固まるから
夕飯のブリ照りは焦げてしまった
「ちょっと、そっち行ってて」
「はい…」
先生はダイニングでエコー写真を見つめ
「これ…頭?」
「や、わかんないけど」
「この…黒いのは?」
なんかしつこく聞くので
「ここが赤ちゃんの入ってる袋で
 確かこの辺りが心臓、ぴこぴこ動いてた」
先生があまりに衝撃を受けるから
なんだか冷静になれた気がする

夕飯もなんだかしんみりと食べ
食べては写真を見、写真を見ては焦げたブリを食べた
もうほっといた

もっと、わーっと喜んで
私の世話し出すんじゃないかと思ってたのに
先生の意外すぎる反応

先生がやっと消化できたのは
片付けもお風呂も終わって、まったりテレビタイムだった

「マダさんは知ってたの?」

いきなりそんな事言い出して
私の膝に寝てたマダを撫でた

「最近よくかなちゃんの膝に行くなって
 思ってたんだよね
 ほら、なんか耳寄せるでしょ?」

確かに

マダは最近よくこれをやる

お腹の音を聞くみたいに可愛い耳を傾けて
お腹に寄り添うみたいに

「マダ…お兄ちゃんになるの知ってた?」
「マダさんにはわかってたんだね」

『センコーもカナも聞こえんの?
 わしにはよお聞こえるで
 こいつでっけえ声で泣きよる』

マダのこの仕草がたまらなかった

昼間にモニターに見た映像より
この写真より

ここにいるよってマダが教えてくれた

「かなちゃん」
先生は親指で私の涙を取って
涙を拭いたくせに

「かなちゃんを…助けに来てくれたんだね」

そんなこと言ってまた泣かせた

そうちゃんの生まれ変わりなんてことは思わなかったけど
私は確かに

落ちずに済んだと思う


妊娠がわかった次の日から
先生は鬱陶しい星人に化けた
「昼休みに抜けさせてもらうから待ってて」
「大丈夫だって、別に行けるし」
「洗濯は帰ってから僕がするから
 そこにつまずいたら大変でしょ」
予想はしてた
先生は絶対このタイプだって
マダに「ママ見張っててね!」って3回くらい言ってやっと仕事に行った

そしてそのお昼
ピンポンもなくいきなり玄関の取っ手がガチャガチャ鳴って
本気でヤバい人来たと思った

「かな!開けろ!」
ピンポン押すのも思いつかないほどの焦りようで
ガチャ

「何やってんだ!寝てろ!」
はぁ?開けてやったのに
てか…
「聞いたの?」
先生に昨日の診察どうだったか電話して飛んで来た授業の空き時間
「まさか言いふらしてないよね…?」
「…え?」
「はぁ?」
「や、田沢にしか言ってないって!」
「はぁ?!
 田沢さんに言ったら広まるじゃん!」
案の定、すぐにひな子からメールが来て
たくちゃんから来て伊東先生から来て
『田沢くん職員室で言いふらしてたよ』
みさき先生からメールが来た


過保護な二人の過保護な妊娠期間
私よりも熱心にたまひよを読み
掃除洗濯料理、病院の送迎
かゆいと言えば背中をかいて
あくびをすればクッションと毛布が用意される
6ヶ月を過ぎた頃
せっせと働く二人に両家のママは、甘やかしすぎだとついに雷を落とした

佐賀からも宮崎からも鹿児島からも
おもちゃに服にパンパースに
大根に白菜にみかん、松露饅頭にお数珠
何度も荷物が届いた


お腹も大きくなった梅雨の初め
「プチかな〜早く出ておいで〜」
って私のお腹を撫でるのはみき
人が見たらパパと勘違いされるレベル
「あ、毛玉それ食ったら怒られっぞ!」
木田さんお手製のベビーベッドの足をカリカリ
「ヒッヒッフーー」
「それほんとにやんの?」
休みの日は暇な人たちが来る

「あ、このキリン可愛いな」

山ほどあるおもちゃの中から後藤は
紗江ちゃんが送ってくれたキリンのおもちゃを手に取った


雨の続く6月の終わり
マダはリビングの窓辺で雨が上がるのを待ちながらウトウトして
その横で監督もウトウトし始めた
先生は入試説明会とかで仕事だった

お昼ご飯のお皿を洗い
夕飯の野菜を切って
人参の皮をマダのお皿に置いた時だった

マダは急に顔を上げて私を見た

「マダ、これは夕飯の…」

ん?

腰のあたりから変な音?がして

「え…やだ何!」
「かな?」
お腹の違和感と

「なんか出る!」
「はあ?!」
監督が飛び起きて
「なんかオシッコ出る!」
「は…お前さすがにそれは…
 あぁ!破水か!」
「えぇ!ハスイ?!」
たまひよを熟読した独身男はそんな判断を下して、私を病院に連れて行った。

先生に連絡はつかないまま、激痛にもがき苦しむ私
なんの嫌がらせか、お母さんは美容院でパーマ液を掛けられてて急には動けず、同じ建物にいるはずのお父さんはオペ中

そして担当じゃない助産師さんが期待通りのことを言う

「パパ!しっかりさすってあげて!
 お父さんになるんだからしっかり!」

なりませんよその人

私の脅威のスピード出産により
夏貴の最初の泣き声を聞いたのは

先生じゃなく監督だった

夏貴が生まれて最初に喜んだ顔を見せたのも


監督だった

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コメント63

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  1. レイラさん(48歳)ID:6585216・1日前

    私もやっと追いつきました🎵

    福岡出身なので、呼子とか日田とか大好きな場所がでてきて、なんだかカナちゃんが身近に住んでる気がして。。。親近感。どこに住んでるんだろう?って考えながら読んでました。

    素敵な男性がたくさん出てくるんですが、私は、なぜか隆二君が気になって😍

    みさき先生とのなり染めや、明瞭に受かったのかどうか、みさき先生とその後どうなったのか、気になりま〜す✨ ぜひ、スピンオフで書いて頂きたいです

    お願いします^_^

  2. リホさん(36歳)ID:6585200・1日前

    やっと💕💕追いつきました。

    ゆきさん、これ、本当に本当に小説にして欲しい〜!!

    無くなるのは寂しいです💧💧😢。

  3. ローラさん(34歳)ID:6584628・2日前

    ユキさんまじありがとー|o´艸) 監督 笑

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