前借【380】
テーマ:小説 > BL
2016/12/02 17:03:07
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★ボクはそれでも恋をする★
客が全員部屋へ戻ると、フロアスタッフが
片付け始める。
山崎は指示されてないのに、それに加わった。
「やっぱり、タクミに似ている」
自分から仕事に飛び込んでいく姿が重なり
リキの胸が切なく軋んだ。
「3日に連勤が明けるから、連絡でもして
みるか。もう、帰国しているだろう…」
ジャケットの内ポケットから、プライベート
のスマホを取り出し、メール画面を開く。
「連絡はなしか……」
リキはため息をついて、スマホをしまった。
昼
「原田さん!」
社員食堂で昼食をとっていたリキの所へ
山崎がとんかつ定食の乗ったトレイを持って
現れる。
「隣り、いいっすか?」
「ああ、空いてるよ」
「お邪魔します」
椅子を引いて、トンと座る。
「原田さん、それだけですか?」
リキのトレイにはネギと薄いかまぼこが
乗っているだけのかけそばがあった。
「あんまり食欲がなくてな。12時間遅れ
の年越しそばってとこだ」
「栄養とらないと、倒れますよ。ほら
俺のとんかつ、一切れどうぞ」
と、真ん中の一番大きなとんかつを箸で
つまみ、リキの口元へ運ぶ。
「それは山崎くんが食べなきゃ」
「俺は両サイドを全部食べるから、大丈夫
ッスよ。ほら、あ~んしてください」
「あ~んは勘弁してくれ」
「そばの上に置いてもいいんですか?」
「いや、それは…」
リキは観念して、口を開ける。
大きなとんかつを口にねじ込まれ、リキは
モゴモゴした。
「どうっすか?美味いでしょ。ここの
とんかつサックサクなんっす」
「ハフハフ……だな」
「はい、もう1つ」
「もういいよ。君が食べなさい」
リキは箸を持つ山崎の手を押さえた。
「う~ん、もっと栄養とって欲しいです」
「エナジードリンク飲んでるから」
「え~~、あんなもんダメっすよ。あれ、
命の前借って知ってました?体が休みたい
のに、ドリンクでリミッター切って、命
燃やして、働くんです。寿命を必要以上に
使っちゃうんですから!」
山崎の言いたいことは判るが、今のリキは
仕事でタクミを一時、忘れたかった。
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