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夫を裏切りたいわけじゃない。でもあなたに惹かれていってしまう…

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テーマ:小説 > 恋愛

2016/11/18 12:44:18

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「何時に帰るんだ」

玄関でパンプスを履く真尋に、慎司が声を掛ける。

「夕飯前には帰ります」
「夜は久しぶりに、ママの餃子が食べたいな」

鍋か何かで、手軽にすませようと思っていたのに。
悪気はないのだが、こちらへの配慮もない慎司の言葉に、
また気持ちが重たくなった。


「そうね」

と軽く返して、真尋は家を出た。
子ども達ふたりは家にいるのに、母を見送りもしない。


(遊びに行くんだから、それでいいんだけれど)


昔は、ママが出掛けようものなら、ふたりして玄関で
真尋の脚に取りすがって、「ママ行かないで」の大合唱だったのに。

成長したのだと言えば聞こえはいいのだが、
でも何処か寂しい。

それは、真尋の心に満たされないものがあるからかもしれない。


水田真尋は、ごくごく普通の主婦だ。

結婚して15年、夫は市役所に勤め、子どもは中学2年生の女の子が一人、小学5年生の男児が一人。

県庁所在地の隣の街に、駅から徒歩圏の戸建て住まい。


夫の慎司とは、友人同士の紹介で知り合った。

「真面目なだけが、取り柄の人だけどさー、
結婚相手にはいいよ。
なんたって、公務員だし」

まさに友人の釣書通りの男だったが、
控えめで慎重な真尋には、慎司の誠実さは好ましく思えた。

二十歳を超えていたのに、二人してお互いがお互いの初めての相手だった。


「真尋…」と、それまで頑なに『さん』づけで呼んでいたのに、
初めて呼び捨てにされたあの熱っぽい声と、
慎司に開かれた身体の痛みはまだ、憶えている。

けれど、あれはもう18年も前のことなのだ。


時が流れれば、変わっていくのは当たり前だ。
体つきも――そして、人の想いも。


結婚した当時のような夫への愛情は、損なわれてきている。
そして慎司の方も、真尋への関心が薄くなってきているのだろう。

月に何度もあった夫婦のコミュニケーションも、最近は月に一度あるかないかだ。

家族にも夫にも、大きな不満があるわけではない。
けれど、このままこうして老いて朽ちていくのかと思うと、
覚えてしまうのは、たまらない閉塞感と――焦燥感。

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