ルチアさんのブログ

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サイレント・ブルー ―終章 5-

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テーマ:小説 > ホラー

2016/10/10 23:25:12

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『お話することは何もありません。ただ、お願いがあります。どうか、「こんな親だから、子どもは死んだんだ」という報道だけは、止めてください。親を悪人に仕立て上げて、それで終わりにするようなことだけは、しないでください』
 それは、祈り。
 一蹴されることはわかっていた。
 多分、相手にされないことも。
 ただ、それでも。伝えなくてはならない、と思った。
 大勢の人に伝わらなくていい。
 ほんの少し、そのことをわかってくれる人がいれば。
 そして、そのことで何か一つでも、「きっかけ」が起きるならば。
 何も伝えないよりも、良いと。
 少しでも、可能性があることはしておきたかった。
 報道されるかどうかは知らないし、確認する必要もない、と思った。
 後は、自分のやるべきことをして、考えて行くだけだった。
 どうして、我が子の死を望む親がいるのか。
 どうしたら、良いのか。自分にできることは、何なのか。
 答えは出なくても、考えたいと思った。
 自分を支えてくれた、幼子のために。
 母に認められたいと願いながら違う世界へと行ってしまった教え子や、殺されたしまった子達のために。
             ★★★
「見事に叩かれているな」
 テレビを見ながら、男が言った。
 宝は、ベッドに座ったまま、ミネラルウオーターで喉を潤しつつ、テレビの画面に目を向けた。
 今週の初め、千華子がテレビ局の取材に応じて出した短いコメントは、そのテレビ局では、目玉証言として報道された。
 「ついに謎の事件の証言が取れた!」と。
 だが、しかし。
 流された千華子の証言はとても短く、真っ当すぎるぐらい真っ当なものだった。
 狂気じみた物を―野次馬根性で面白がって期待していた視聴者達は、テレビ局を責めた。
 それこそ誇大広告だ、視聴者をバカにしているのか、と。
 そうして。
 事態は千華子が望んでいたものとは、別の方向へと向かい始めてしまった。
 曰く、テレビの誇大した報道問題とか。
 視聴率を取るための、捏造とか。
 そう言った問題の方へと視聴者の意識は向かっていった。
 結局千華子の証言を報道したテレビ局が謝罪して、それが今日の朝テレビで流れていた。
「これ、わざとか?」
 上半身裸の男の後ろ姿に、宝は問うた。
「いや」
 だが、男の答えは短い。
 ならばそれは、
「君達の仕業か?」
 宝は、ベッドのすぐ脇にいる少女の霊に話かけた。
 千華子とよく似た面差しをしたその少女は、小さく笑っただけで何も言わなかった。
「何でここに来た?」
―お礼を言いに来たの。
 だが、次の問いにはあっさりとそう答えた。
「お礼?」
―あなたは、あの子を助けてくれたから。あの子も、ずっと気にしていたし。
 その言葉を聞いて、千華子らしいと、宝は思った。
「俺は、何もしていない」
 実際、自分は何もしていなかった。死を覚悟して悪鬼と化した若葉の所に乗り込んだものの、悪鬼を倒したのは、若葉が作ったサイトを利用して「殺された」子ども達の霊だった。
 彼らも、あのままだったら悪鬼化していただろう。
 もしそうなっていたら、宝も、愛理も、護も死んでいたに違いない。
 だがそれを、千華子が阻止した。子守唄を歌い、子ども達の記憶を甦らせて、その「哀しみ」を癒した。
 そのおかげで、宝は死ぬこともなく、愛理と譲をこの世界に連れ戻し、悪鬼と化した若葉の「欠片」も、回収できたのだ。
 その「欠片」は、警察病院に入院した譲に渡した。
 「欠片」は「欠片」だ。
 それを持っていても、「若葉」は生き返らないし、それは、遺骨と同じようなものだった。
 かつて「若葉」として存在していた者の、一部。
 それを譲がどうするのか、宝は知らない。
 ただ、本当に貝殻ぐらいの大きさの白い欠片を渡すと、譲はそれをぐっと握り締めて静かに泣いた。
 悪鬼に半ば「同化」していた愛理は、意識は戻ったが記憶の混乱を起こしていて、母親と弟と過ごしていた頃までの記憶しかない。
 何れ回復するだろうと医師は言ったが、それでも時間は必要になるだろう。
 そんな中、廃園が決まった「愛育園 若草の家」で働き続けることを千華子が選んだと、宝は香から聞いていた。
―それでも、あの子を助けてくれたでしょ?本当に、ありがとう。
 微笑みながら、少女―理華子は頭を下げて、そして消えた。
「……あれは、何だ?」
 その直後、男が振り返りながら言った。
「どうして、あんな恐ろしい者と平気で話せる? あれは、聖と邪の狭間にいる者だぞ!?」
 いつも飄々している男の珍しく取り乱した姿に、牽制の意味もあったのか、と宝は気付く。
「だから、言っただろう? 瓜生千華子には手を出すなって。『退魔』の力を持つ者、『破邪』の力を持つ者、『守り』の力を持つ者を守護に持っているけれど、あの姉がその中でも、一番『力』を持っている」
 だが何よりも、千華子自身が。
「それ以上の『力』を、あいつは持っているんだ」
 無自覚とは言え、「神」を召還させていた。
 あの時、聖母マリアのイメージが浮かんでいたが、あれは紛れもなく、「神」の力だった。
 「神」を召還し、「神」の力を使う。今回は癒しの力だったが、己の身が「死」に近付いた時、容赦なく千華子は「力」を使うだろう。
 そして、そのことを「姉」である理華子も止めはしない。
 妹に「力」を使わせないことを最上としているらしい理華子も、「命」に関わる時は、その邪魔をしなかった。
「戸口さんにも、言っておいたけど。絶対に、手を出す相手じゃない。……ヘタに手を出したら、こっちが殺される」
 「人」は、「神」には勝てない。
 「触らぬ神に祟りなし」という諺は、人が長い経験を積んで得た知恵の一つだ。
「どんな化け物なんだよ……!」
 男が、頭を掻きながら呟く。
「ただの一般人」
 そんな男の姿に、苦笑を浮かべながら宝は言った。
「はあ!?」
「少なくとも、本人はそう思っているみたいだったな」
 神のごとくな「力」を持つくせに、その感覚は、あまりにも真っ当だった。
 ごく普通の人間が持つ、真っ当な感覚を千華子は常に持ち続けていた。
『何か、また電話をかけてきた妹さんに、怒られていたみたいよ』
 香から聞く千華子の姿は、ごく普通の女性―多少、間が抜けている部分もあるがーのものだ。
 きっと彼女はこれかも、中断していた親子の絆を回復しに行くのだろう。
 そして、四月まで、「愛育園 若草の家」で一生懸命働いていくのだ。
 自分が、「神」のような力を持っているとは少しも気付かずに。
 でも、それで正解なのかもしれなかった。
 人は、「神」にはなれないのだから。
 そこまで考えて、ふと宝は思った。
 人は、「神」にはなれない。
 だが、「神」とて。万能でないのかもしれない、と。

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