ルチアさんのブログ

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サイレント・ブルー ―終章 3-

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テーマ:小説 > ホラー

2016/10/04 20:57:32

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「楽しみに待っています」
『ふふ、じゃあね。今から、私いざ出陣!だから』
 笑いながら柚木はそう言って、通話を切った。
 千華子は、しばらく通話が切れた携帯を見つめた。
 柚木も、何かを迷い、そして選ぼうとしているのだ。
 千華子か迷い、そして選択して、歩き出したように。
 千華子は、テーブルに携帯を置くと、荷物の整理を再開した。 今日、千華子はこの部屋を引き払い、光村が住む部屋へと引っ越すことになっていた。
 千華子から福祉法人の採用通知を見せられた光村は、それならば、と納得してくれて、「愛育園」を経営することになった舞場市に、千華子も臨時職員として働くことを伝えてくれた。
 そうなると話は早く進み、千華子は今のまま「愛育園 若草の家」働くことになった。
 ただ、どう考えても家にはあまり帰れないと言うか、ほぼ、光村は住み込み状態になるのは、目に見えていた。
 千華子が慣れてくれば、交代で夜勤の勤務をこなしていけるだろうが、増員も見込めない今、光村はほとんど自分の家には帰れないだろう。
 だから、自分のアパートに住めばいい、と光村は言ってくれた。
 実は宝も「榎本」として「愛育園 若草の家」で働いていた時に、光村の部屋に泊まっていたらしい。
『一度自分の部屋に帰った時に、びっくりしたわよ。誰の部屋!?って思っちゃった』
 そう言われて、なるほど、と思った。
 宝が使うにしてはかわいらしい食器があったのは、そういうわけだったのだ。
 光村は車を出すと言ってくれたが、千華子は大丈夫です、と断った。
 できるだけ、千華子は光村に負担をかけたくなかった。
 来年の四月までとは言え、これから半年、光村にとってはハードな勤務が続く。近くにコンビニがあるから、自転車に乗らない荷物は、時間指定をして送ればいいのだ。
 光村の住むアパートは、千華子の借りていたマンスリーのマンションからは少し遠かったが、「愛育園 若草の家」からは、自転車で十五分ぐらいの距離だった。
 千華子が夜勤の勤務の時は、朝の九時までに来て、翌日の朝までいる。
 何も問題はなかった。
 問題があるのは、もっと別のことだ。
 そう思いながら、千華子が荷物を詰め終わり、バックのチャックを閉めた時だった。
 テーブルに置いた携帯が鳴った。
 その着信音は、レイキのお客用に使っている物だった。
 携帯に手を伸ばし、画面に映し出された番号は、千華子の知らないものだった。
 だが、頭に03が付いているので、東京から発信されているものだということは、わかる。
 おそらく十中八九マスコミ関係の方からだった。
 千華子はこの事件の捜査に関わった者達と田村以外には、誰にも言っていない。
 だが、人の口に戸口は立てられないと言うのか、何時の間にか、サイトで「レイキヒーラー」をやっている「千華子」が、この事件に関わっている、という話があちらの方に繋がったらしい。
 レイキヒーリングを申し込んでくれた誰かが漏らした可能性は高かったが、確かめる術はなかった。
 あの事件の後、千華子は仕事用の携帯には出ないようにしていた。レイキヒーリングを申し込んでくれるお客達のやり取りは、たいていフリーメールで済んでいたし、携帯番号の方にかけてくる者はあんまりいなかった。
 だが、ここ二週間ぐらいは、毎日のように仕事用の着信音が鳴る。
 どのみち、今待たせているお客のヒーリングが終了したら、しばらくは、レイキヒーリングの仕事は休業するつもりでいた。
 これから四月までは、「愛育園 若草の家」での仕事は千華子もハードを極めるし、それから間をおかずに学童の仕事が始まる。
 東京から九州に引越しもしなくてはならないから、レイキヒーリングの仕事は、とてもじゃないが、落ち着いてできる状況ではないのだ。完全に待たせているお客のヒーリングが終了したら、仕事用の携帯番号は解約する。
 それまで、後二ヶ月近くもあるから、しばらく放っておけば、マスコミの方もあきらめるだろう、と千華子は思っていた。
 だから。今日もそのつもりで、今度は持っていく荷物をまとめようと、立ち上がった時だった。

「本日、東京都舞場市の新見川から、男児の死体が発見されました」
 
 ふいに。
 テレビの音が、はっきりと耳元に響いた。
 それと同時に、テーブルの隅に置いた、ナツ用に使っていたパソコンが目に入った。
 千華子は思わず、テレビを振り返った。

「死後数ヶ月経ったと思われる男児の身元確認をすると共に、警察は事故か事件のどちらかに巻き込まれたものとして、捜査を進めることにしています」
―お姉ちゃん。大好きだよ。
 そうして。
 あの共にいた、幼子がくれた言葉を思い出す。
 あの幼子がくれた言葉は、自分を一生支えていくものになるだろう。
 ならば、自分にできることは。
 きっと、ナツは母親だけが悪者になることは望んでいない。
 殺されてしまった子達も、それは同じような気がした。
 確かに、親に「死」を望まれ、殺されてしまったけれど。
 それでも、「愛された」瞬間はあったのだ。
 そして、「恐ろしいサイト」と言われるあのサイトを作ったのは、家族を亡くし、「自分の家族を持ちたい」と思った小さな女の子が夢に敗れて、絶望の果てに作り出したものだった。
 それは、許されることではない。
 そしてその動機も、許される理由にはならない。
 でも、それで全てが済まされて良いわけではないのだ。
 何故、我が子の死を望むようになったのか。
 何故、そんなサイトを作ろうと思うまでになってしまったのか。

 あの人は、そんなことを平気でする人間だった。

 それで、ほとんどの人が済ませるだろう。
 マスコミですらも、「こんな悪人がいました!酷いですよね!!」的な報道をして、自分達が正義の味方になったような報道で済ませる。
 でも、それは違うことを、千華子は知っていた。
 最初から悪人なんて、一人もいなかった。
 皆、自分の「理想の子育て」をしよう、としていた。
 そして、追い詰められていった。
 どこまで届くかわからない。
 最初から、結果が出ないこともわかっていた。
 でも、何もしないであきらめることは、してはいけない、と思った。
 それが今の自分にできる、唯一のことであるのならば。
 後悔は、後でやれば良いのだ。
 そう思って、千華子は鳴り続ける携帯に手を伸ばした。

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