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燃ゆる空 1

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2016/08/23 16:09:31

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どいつもこいつもバカにしよって。

ワシを老人施設に突っ込み、胴っ腹をベットに括り付けやがった。

バカ息子どもが!

ええいっ!

年寄り扱いしおって!腹わたが煮えくり返るは!!

爺ちゃん、爺ちゃんと甘えた孫も、施設で暮らせと言いやがる。こんな所を終いの住み家にさせる気か。ワシの頭は狂っとらん。誰がこんな所で暮らせるか。そのうえ何だ、このふざけた施設名は『ひだまり』と来たもんだ。

バカにするのも、ええ加減にせいっ!

「はい、お爺ちゃん。お注射打てば気持が落ち着きますよ」
「うるさい!だまれ」

ワシは自由の利く両手で闇雲に暴れてやった。しかし、九十も過ぎると若い看護婦に力負けをして
しまう。

「は~い、力を抜いて下さい。チクっとしますよ」

ワシは鉄砲で撃たれても、日本に生きて帰って来たんじゃ。なにがチクっとじゃ!目の前に立つ看護婦の笑顔が気に入らん。誰にでもニコニコしよって、もっと真剣な顔をして働かんか。

「ゆっくり眠れますよ」

やめろ。お前の甘ったるい言葉は聞きたくもない。首筋が痒くなるわ。だいたい、ワシはお前の苗字が気に喰わん。絶対に相性が合わん。俺が心底惚れた女を奪い取った男と同じだ。金と権力、人の弱みにつけ込み、ワシの愛した女を嫁に娶った奴と同姓だ。
それになんだ。ちゃらけた「ひらかな」を名前にしよって。何をめぐんで欲しいんだ。親の顔が見たいもんだ、名前にも気合を入れんか、このたわけども。

ワシは注射を打たれながら、看護婦のネームプレーとをもう一度見た。

『篠崎 めぐみ』

「はい、次は口を開けて下さい」
「やかまひい。自分で飲むから、薬を渡さんか」

そう言って震えの止まらん右腕を伸ばすと、篠崎が白い錠剤を手の平に3つのせた。

口を大きく開けポンと口の中に放り込むと2つしか入らない。小さな錠剤がワシの胸をコロコロ転がって行く。

「あ~あ~あ~、お爺ちゃん。だから、私が飲ませてあげたのに」
「うるさい。手が滑っただけじゃ」
「もう~、ちゃんと言うこと聞いて下さいね」

ワシの体は自分が良く分かっている。

思うように歩けんことも、食事が綺麗に喰えんのも分かっておる。家の風呂場で転び、腰を打って助けを呼んだのも覚えておるわ。今更、ろれつも回らん口で昔話をしても仕方がない。

若い頃は根性があったなど言う気も無い。

だがな

ワシは、あのインパールで敵国と戦って来た。鬱蒼と茂るジャングルの中で、味方と敵の判断もつかん状況で戦って来た。手足が千切れた戦士や頭が吹き飛んだ仲間もいた。ウジがウヨウヨと人型を作る死体もあった。敵兵を殺らなければワシが殺される。しかし、死ぬより生き続ける方が辛かった。

あの世に地獄など無い。

地獄はこの世にある。

看護婦相手に戦争自慢をする気もない。たとえ言ったにしても、閻魔の地獄と戦場を同じに聞かれるだけだ。

しかし、

戦争が終わり年を取った今も分からん事がある

ワシは誰の為に戦ったのか、何の為に戦ったのか。なぜ何十万もの人間が命を落した戦争の目的は、どこにあったのか。それが分かるまで死ねん。

だから、こんな所でボケボケ出来んのだ。早く家に帰りたいが、篠崎は何を飲ませやがった。意識が朦朧としてきた。

やっぱり篠崎とは相性が合わん。

あいつは、鬼畜米英以下の男だ。

俺の静江を奪ったのだ。

「はい、お爺ちゃん。グッスリ寝てね」

この野郎……

つづく

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