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心を揺さぶる小説を書きたい

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琥珀色 最終回

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2016/08/21 12:58:25

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新聞のお悔やみ欄に、彼の名前があった。

私は立ち上がることもできなくなり、大粒の涙が頬を伝わり落ちてくる。愛する人との永遠の別れが訪れ、私の生気さえも奪っていく。

どうして彼が死んじゃうったのか納得ができない。彼にはまだまだ生きていてほしいし、なぜこんなに早く死なないとダメなのか。彼は50才にもなっていないのだ。



うそっ

そうか、そうだったのか。

あの野郎!!あいつはうそつき、詐欺師、ペテン師のとんでもない男だ。
彼は五十才まで生きられないと察して、3年も早く会いに来たのだ。そして私を惚れさせておいて死んでしまった。とんでもない男だ。
自分の家族にばれたら困るから、入院している病院も教えてくれなかったし。今まで暇つぶしに私と会って、性欲を晴らしていたのだ。殺してやる。包丁で刺し殺してやりたい。と思っても彼は亡くなってしまった。

だけど

彼と過ごした時間や笑顔を思い出せば、本物の詐欺師、ペテン師には思えない。彼は私と結婚したいと思っていたはずだし、一緒に暮らしたいと思っていたはず。間違いない。だってセックスが終わった後も優しさは変わらないし、一緒に朝食を食べるときだって、20代に負けないくらいラブラブだった。
もう、怒っていいのか、思い切り泣きたいのか、わからなくなる。どう整理して良いのかわからないのに涙が溢れ続け止まらなかった。

☆☆☆

私はポンコツの白い軽自動車に乗り札幌に向かった。通夜に参列するためで、遺族から見れば、私は不倫相手になる。良い悪いは別の問題としてW不倫なら、私にも夫がいての不倫。でも私には夫もいない。ただ、奥さんのいる男に惚れたバカな女で、劣等感さえ感じてしまう。おまけに軽自動車は錆びが目立ち、今壊れても不思議じゃないポンコツ、あまりに哀れじゃないのか。

大きな葬儀場につけば、彼の葬儀を知らせる看板が掲げられていた。

『中田家 葬儀会場』

こんなに悲しい葬儀は初めてで狼狽えてしまう。
涙が溢れて車から下りられないのだ。私だって何度も葬式には出ているけれど、私ほど泣き続けている人は見たことがない。私はハンカチで顔を隠し、お尻を無理やりシートから剥がしたけど、足元がおぼつかなかった。

都合が良いことに、大きな葬儀場には3件のお葬式が入っていた。式場のロビーに立てば、どの家の関係者はわからない。そんな風に気を紛らわせたけれど、彼の遺体が近くにあると思うだけで、椅子に座り込み泣いてしまった。

多くの人が行き交うロビーで、女性の声が私の耳に入ってきた。

「あら、中田さん」
「あれっ、博子。わざわざ来てくれてありがとう」
「いいの、いいの。そんなことよりご主人が亡くって大変だね。まだ50前でしょ」

私の体がピクっと反応した。彼の奥さんがいる。思わず顔を上げたると奥さんが言った。

「もう、3年も前から分かってたから、心の準備もできてたし」
「でも、お子さんも学生でしょ」
「大丈夫よ。私のことは心配しなくても、何とかなるから」

そう言った奥さんが、薄い笑みを浮かべて笑ったのだ。私は眩暈と同時に殺意さえ覚えてしまった。

彼は死んだのだ。あの彼が死んだのだ。妻なら泣き喚けとは言わないけれど、笑える心境が理解できない。それなら、私がいくらでも泣いてやる。
今から遺体に抱き着き泣き喚いてやりたい。それとも、明日は遺骨を盗んでやろうか。私は遺骨と一緒に暮らしてもいい。そんな強い怒りを抱いて式場に入ると

優しい笑顔で写る遺影が目に飛び込んできて、立っているのも無理だった。泣き崩れた私に関係者が集まってくる。

「大丈夫ですか。立てますか」

迷惑をかけたくない。死んでまで彼に迷惑をかけられない。でも、彼の近くに行きたい。彼の頬をそっと撫でてやりたい。お別れの言葉言いたい。もう一度、愛してると言いたいけれど、式場の空気が「あの女は誰」と言っている。

私は泣きじゃくりながら言った。

「ごめんなさい。悲し過ぎて………」ギリギリまで言葉を選び、考えてから言った。

「式場を間違えました」


☆☆☆


彼が亡くなり初七日を迎え、私は家から出ることもなく悲しみに暮れていた。

私は遺品一つも持っていない。あるとすれば二人で撮った写メしか残っていない。でも遺品は必要ない。遺品を抱いて生きていく希望が持てないからだ。

私も死にたい。

だけど娘もいれば、年老いた母親もいる。
それでも、生きたいと思えない。いっそのこと岸壁から海に飛び込み死んでしまいたい。そうすれば、あの世で彼と結婚もできるし一緒に暮らすこともできる。今なら彼だって遠くに行ってないはずだ。

もしかしたら、そばで私を見ている。そんな気がしてならい。今なら間に合う。彼は迎えに来ているのだ。だって、こんなに悲しむ私を放って置く訳がない。私は車のカギを握って立ち上がった。

それと同時にインターホンが鳴る。

余計な訪問者だけど、居留守を使うのも時間の無駄。玄関で会っても無視をして岸壁に向かう。
私は玄関を開け、ちらっと訪問者を見ると、スーツを着た男性が言った。

「中田から預かった物を届けに来ました」呆気にとられていると男は続けて言った「外にあるので、お時間はありますか?」

悪いイタズラにしては度が過ぎていて、彼からのお届け物なんて、あるはずがない。

「時間はかかりませんので、受け取ってください。それでないと中田に怒られます」

単なるイタズラではないようで、彼の名前を聞かされたら無視はできなかった。

私は男性と一緒に外に出た。

真新しい軽自動車が止まっていた。白くて可愛いい女性向けの軽自動で、スーツを着た男性が乗るには、少し違和感があり似合わない。私は顔を見ると男性が言った。

「俺とあいつは昔からの親友で、3ケ月前に頼まれた自動車です」

えっ

「代金はもらってありますし、中田からは俺が死んでから届けてほしいと言われていました。どうですか?気に入ってもらえましたか?」

気に入るもなにも………

「それと、もう一つ預かり物があります」

男性はスーツのポケットから、小さなケースを取り出すと、思わず声が出てしまった。

「うそでしょ!」
「僕も恥ずかしくて言い難いですが、中田の言葉をそのまま伝えます」

彼の言葉を聞く前から涙が溢れてきた。

「今度、生まれ変わったら結婚しよう。必ずだ」

男性がケースを開くと、二つ並んだ結婚指輪が出てきた。

新しい自動車に視線を向ければ、彼はこれに乗って生きろと言うのか。前を向いて走れと言っているのだ。

そして

結婚指輪を受け取ると、声を上げて泣いてしまった。
彼からもらった自動車に抱き着き、指輪を胸元で抱きしめ、大声で泣いた。

彼の心が伝わり空を見上げると、とんびが飛んでいる。

あの成人式の日と同じように

空に円を描いていた。

おわり

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コメント12

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  1. フリューゲルさん(30歳)ID:4923349・08/22

    しのさん

    コメントありがとうございます♪
    最終回まで待っていただいて申訳ありません。一気読みもありがとうございます。

    中田君の気持、薫の気持、中田君の奥さんの気持、薫の母親の気持、薫が娘に対する気持と、その人その人の立位置で感情が違ってきますよね。
    いくつになっても人愛する気持は変わりなく、年を重ねるごとに愛情の種類が違ってくる♪
    この小説の舞台は室蘭市です。鉄の製造や重工業で栄えた町で、都会と比べて華やかさに欠ける町です。
    でも、海に囲まれた自然の多い町でもあり、景色の美しい小さな岬は何か所もあります。地球岬も綺麗ですが……海しかない(笑)
    室蘭市立水族館は入場料が安くて、ほっけ・タコ・ソイが泳いでいます(笑)
    小説って良い思います。次回も、しのさんの心を揺さぶる小説が打てればいいなと思っています。
    北海道に台風が来ます。大雨になるのでしょうか?

    これからも、よろしくお願いします

  2. しのさん(99歳)ID:4922208・08/21

    フリューゲルさんこんばんは!
    一気に読みたくて、最終回更新までワクワクしながら待っていました!

    悲しい、切ないとか、中田君の奥さんの気持ちを考えて辛くなって、お葬式でうっすら笑みを浮かべてたのなら悲しくなかったのか、と腹が立ったり、薫が死んじゃったらどうしよう、と思ってたところに車と指輪が届いて、泣きそうになったり。。
    久しぶりに小説を読んで気持ちを動かされてまだどきどきしています。
    それから、私が行ってみたいと思っていた街が舞台で、嬉しかったです。
    私の地元も北海道なのですが、小さな頃あちこち連れてってもらったのになんの記憶もなく。。
    今回、小説を読んで、また行きたい気持ちが再燃しました!
    いつか行って、そこでこのお話を読み返したいです。

    北海道、台風がくるってニュースでみて
    フリューゲルさんのこと思い出していました!
    たいした雨じゃないことお祈りしています!

  3. フリューゲルさん(30歳)ID:4918563・08/21

    シアンさん

    コメントありがとうございます🎵

    シアンさんは、心の優しい方ですね。

    見境いなく人を殺すことに抵抗のない国や人達がいて、日本にも殺人を犯す人もいる。殺された人には必ず親がいるし、子供だっている可能性もあります。
    これをテーマにしたら、GTで更新できなくなりますね。

    (゚O゚)\(- -;

    私も目を潤ませながら打ちました。薫が可哀想で。
    時間があればもっともっと盛りだくさんの文字で更新したかったです。

    これからもよろしくお願いします🎵

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